IOGがCardanoに提供したもの
Cardanoの開発は系統的な研究に基づく意図的なイノベーションへのアプローチによって導かれています。5段階以上の開発期を経て、IOGはイノベーションや最新の機能を導入。各段階とも前段階の成果をもとに構築されています
2022年 11月 18日 20 分で読めます
本稿は、全IOGチームからの情報をもとに、Fernando SanchezとOlga Hryniukが執筆しています。
歌のない労苦は終わりのない辛い旅をしているようなものだ
はじめに
Cardanoブロックチェーンの開発は、系統的な研究に基づく意図的なイノベーションへのアプローチによって導かれています。Cardanoのイテレーションはたった7つのノードからなる連合型ネットワークから始まり、Input Output Global(IOG)は一度に1つずつ、ブロックチェーンの設計に新機能を追加してきました。5段階以上の開発期を経て、IOGはイノベーションや最新の機能を導入。各段階とも前段階の成果をもとに構築されています。
追加されるごとに、Cardanoはなんらかの形で改良または強化されています。スマートコントラクトなど一部の機能は非常に可視化されています。パイプラインやブロック拡散などはさほど目立たないものの影響の大きさは変わりません。そして、新たな機能が追加されるたびに、Cardanoは堅固で信頼できるエンタープライズグレードの主要なブロックチェーンへと一歩一歩近づいているのです。
本稿の根拠
今日のCardanoは、オープンソースのプルーフオブステーク型第三世代ブロックチェーンプラットフォームです。その名称は、16世紀イタリアの物理数学者ジェロラモ・カルダノに由来します。第三世代ブロックチェーンプラットフォームは、スケーラビリティや相互運用性など、それ以前の2つの世代(ビットコインとイーサリアム)を悩ませていた問題を解消し、分散化という野心的なアジェンダを実現するよう設計されています。
Cardanoを一から設計、構築したブロックチェーンエンジニアリング企業のIOGは、どのようにこれを達成したのでしょうか。
本稿では、Cardanoメインネット始動以来の、IOGが推進する研究と開発の重要性と影響を取り上げます。
本稿の構成
全体像を明確に示すため、本稿の構成はCardanoの旅と一致させています。すなわち、2017年のByronで実施された最初の基本的なステップから、2022年のVoltaireにおける自律型、自立型、完全分散型のブロックチェーンの提供までです。
本稿は、5章構成でこのナラティブを保ちます。
- Byron:Cardanoの基盤
- Shelley:ブロックチェーンの分散化
- Goguen:ネイティブトークンとスマートコントラクトの導入
- Basho:Cardanoのスケーリング
- Voltaire:自立性とガバナンス
各章では1つのフェーズに焦点を当て、その成果を詳述し、包括的な開発過程におけるその影響と重要性を定義します。
Byron:Cardanoの基盤
2015年、全ブロックチェーンネットワークが直面していた3つの戦略的課題、スケーラビリティ、サステナビリティ、相互運用性を克服しようというビジョンからCardanoの物語は始まりました。何千にも及ぶGitHubコミット、何百時間もの研究を経て、2年後の2017年にようやくCardanoの最初のビジョン、Byronが始まりました。
Byronにより、ユーザーは、画期的なOuroborosコンセンサスプロトコルを実行する連合型ネットワーク上で、革新的な数学者、エイダ・ラブレスにちなんで名付けられた暗号通貨ADAの売買を行うことができるようになりました。Cardanoネットワークの中枢であるOuroborosは、学術研究を基盤とした最初のプルーフオブステーク型プロトコルであり、数学的に実証されたセキュリティレベルを誇ります。
Byronリブートは、Cardanoノード、Cardanoエクスプローラー、ウォレットバックエンドなど、Cardanoネットワークのさまざまなコンポーネントを更新し、IOGの公式デスクトップウォレットDaedalusを配信しました。IOGの開発作業をもとに構築され、迅速なトランザクションと日常的な使用を念頭に設計されたEMURGOのライトウォレットYoroiも配信されました。ADAのトランザクション履歴を追跡するため、Byronにはチェーンのアクティビティの閲覧専用に設計されたツール、Block Explorerも搭載されました。
インパクト
Byronは最初の不可欠な技術開発期として位置付けられますが、同時に未来のブロックチェーンを生み出す人々が集まるコミュニティが形成された時期でもあります。これにより、Cardanoは小数人の愛好家グループからグローバルコミュニティへと成長し、ADAは30を超える暗号資産取引所で取り扱われることになりました。
Shelley:ブロックチェーンの分散化
Shelleyは、Cardanoの成長と最適化を推進する分散型の経済システムを創り出しました。 Byronの連合型ネットワーク保守から離れて、Cardanoコミュニティが実行するノードが次から次へと増加し、完全な分散化へと進化していきました。Shelleyの立ち上げ以来、Cardanoは3,000を超えるステークプールオペレーター(SPO)を獲得しています。SPOコミュニティはShelleyの立ち上げに大きく貢献しています。彼らはITNの初期段階からメインネットのフォーク、それ以降に至るまでのCardanoの進化において、欠くことのできない役割を果たしました。
Shelleyは複数の重要なステップに焦点を当て、ステークプール運営、委任の選択、インセンティブにおけるユーザーエクスペリエンスを高めました。プルーフオブステーク型ブロックチェーンとして、Shelleyではユーザーは自分のADAを賭けてネットワークコンセンサスに参加します。ゲーム理論とプルーフオブステーク型ネットワークに関する最新研究を使用してきめ細やかにデザインされた委任およびインセンティブメカニズムにより、ユーザーはコミュニティにより実行される常駐のネットワークノードであるステークプールに自分のステークを委任し、ネットワークに誠実に参加することによって報酬を得ることを奨励されます。
Shelleyの立ち上げ以来、IOGのチームは多くの新機能やアップグレードに取り組んできました。そのすべてが、デリゲーター(委任する側)としてもSPOとしてもユーザーエクスペリエンスを改良および最適化することを意図したものです。
ステーキングと委任の戦略は、一時的な利益よりもコミュニティにとっての長期的な恩恵を重視した、パラメーターの変更および計算の改良を経験しました。場を標準化するために、IOGはネットワークのパラメーターを変更し、ネットワーク全体に均等にステークが分散され、大規模なステークプールがエコシステムを支配する可能性を排除しました。SPOとADAのデリゲーターは、その後ネットワークのサステナビリティと継続的なリターンのために、より有利なステーキングの機会を経験することができました。
2021年3月、dパラメーターが0に設定され、Cardanoのブロック生成は完全に分散化されました。これにより、ブロック生成の責任は、SPOコミュニティの手に委ねられました。
こうした重要な強化に沿って、IOGはCardanoの機能拡張に取り組みました。ステークプール運営をよりよいものにするために、RTViewはノードアクティビティのリアルタイムの監視を可能にしました。IOGはトランザクションメタデータ機能をデプロイして、スマートコントラクトのサポート実装前に役立つ特定のデータをトランザクションに埋め込むことを可能にしました。
さらに、データアカウンタビリティは、ステーキングと委任において常に欠かせない役割を果たしています。ステークプールデータの追跡と維持を向上させるために、IOGはステークプールメタデータを記録するSMASHシステムを実装し、Daedalusウォレット内のランキングシステムを継続的に改良してきました。こうしたアップグレードはユーザーからのフィードバックや科学的な研究をもとにしています。これがユーザーインターフェイスとユーザーエクスペリエンスの強化を促進し、SPOとADA保有者が共にプールとその関連データとの間を、シームレスに行き来することを可能にします。
インパクト
Shelleyはネットワークの自然な成熟期を象徴しています。実用性と報酬が増し、新規ユーザーにとっても従来のユーザーにとっても価値が高まります。Shelleyはまた、将来に向けた準備期間でもあります。分散型の機能的なネットワークの準備を整え、ShelleyはGoguen、Basho、Voltaireの基礎を築きました。
Goguen:ネイティブトークンとスマートコントラクトの導入
Cardano Shelleyがよりハイレベルのシステム分散化を提供する一方、Goguen開発は分散型アプリケーション(DApp)構築、スマートコントラクトサポート、カスタムトークン発行のための、グローバルな金融およびマルチ機能システムに焦点を当てました。
Goguenという開発テーマの名称は計算および情報哲学を専門とする計算機科学者、ジョセフ・ゴーグエンに由来します。ゴーグエンは、抽象データ型の代数的特徴づけへの最も初期のアプローチに取り組みました。また、IOGが、査読付き研究と高保証開発というCardanoの堅固な基盤を構築しながら取り入れている技法である、形式手法や定理証明にも携わっています。
Goguenは、サプライチェーン、トラック&トレース、金融、医療記録、ID投票、財産登録、ピアツーピア支払いなど、さまざまなアプリケーションドメインに関するソリューションを構築するための多目的プラットフォームを確立しました。Goguenはその機能によって、Cardanoをビジネスニーズを満たす、より相互運用性とスケーラビリティに優れたプラットフォームに調整するための最初のイネーブラーを設定しました。
マルチ資産(MA)サポートの導入は、ユーザーがCardanoでネイティブにサポートされている自分たちのトークンを定義、作成または廃棄、取引きすることを可能にすることによって、Cardanoの機能を拡張しました。MAのサポートと共に、Cardano会計台帳は、スマートコントラクト不要でカスタムトークンの処理を可能にしました。これにより、操作の処理が大幅に合理化され、トークンの動きが簡素化されました。また、複数の暗号通貨が絡むスマートコントラクトとDAppsの統合が簡易化するという利点もありました。
Plutusアプリケーションの開発は、Goguenのもう1つの重要な機能です。Plutusアプリケーションは、Haskellを活用してスマートコントラクトの開発および実行専用に構築された、Plutusプラットフォーム上に構築されます。Haskellの使用により、開発者は、最高レベルのセキュリティと効率を提供する、単純で簡潔かつ再利用可能なコードを使った安全で信頼できるアプリケーションを構築することができます。
Goguenはまた、金融やビジネスの関係者が技術的知識の素地なくともスマートコントラクトを作成することを可能にするMarloweを使用して、Cardanoユーザーの裾野を広げます。Marloweは、視覚的に、またはコードを使ってコントラクトを構築できる高水準のドメイン固有言語(DSL)です。金融機関は、顧客用にカスタマイズした商品の開発およびデプロイにMarloweを使用することができます。Marloweには、サンドボックス環境でスマートコントラクトの作成プロセスを開発、シミュレーション、テストできるMarlowe Playgroundが付属しています。
インパクト
トークンロック、マルチ資産、スマートコントラクトサポートなどの機能を実装することにより、CardanoはDApp開発用多目的プラットフォームになりました。
PlutusとMarloweを組み合わせることで、現実世界における大規模な実装をサポートすることができる、実証された機能を持つエンタープライズレベルのスマートコントラクトという新たなカテゴリーが生み出されます。これは、ミッションクリティカルな、分散型スマートコントラクトアプリケーション開発への道を開く、Cardanoの機能性における大変革期です。そして、さらにエキサイティングな機能性が、Basho、Voltaireとともに到来します。
Basho:Cardanoのスケーリング
Bashoは、最適化、スケーラビリティ、相互運用性に焦点を当てたCardanoの開発テーマです。コア機能が整ったのち、Bashoでは規模の拡大と大量のトランザクションを伴う何千ものアプリケーション導入のサポートを強化するために、Cardanoネットワークの基盤となるパフォーマンス改善に注力します。
Bashoの期間、IOGは新しいレイヤー1とレイヤー2のソリューションをデプロイすることによって、Cardano台帳の容量とスループットを順調に増加させています。これらのソリューションには、ブロックサイズの拡大やオンチェーンストレージ、拡散パイプライン、Plutusのメモリーとスピードの強化、コストモデルの改善などのオンチェーンの改良が含まれます。オフチェーンのソリューションには、スループットとトランザクション処理のコスト効率を最大化するHydra Headsや、フルノードとライトノードクライアントのチェーンの同期時間を向上させるMithrilが含まれます。
Bashoはまた、サイドチェーンや、他のブロックチェーンシステムと双方向通信を可能にするクロスチェーンブリッジなどのソリューションを使用した、相互運用性にも焦点を当てています。今後のサイドチェーンツールキットのリリースにより、開発者たちは自分のサイドチェーンをブートストラップして、Cardanoのクラス最高のセキュリティ、コスト効率、環境への優しさを享受できます。サイドチェーンは、異なるルールやコンセンサスメカニズムに基づいて運営されているブロックチェーン間で、価値の移動を可能にします。この結果、Cardanoの相互運用性が飛躍的に高まるとともに、ネットワークで新しいタイプのユースケースをサポートすることも可能となります。
IOGはエコシステムパートナーと協力して、Djedステーブルコインの研究も遂行します。Djedは、形式手法を用いることによって実現した、価格の安定性に実績のあるアルゴリズム型ステーブルコインです。ステーブルコインのアルゴリズム設計により、セキュリティ設定が強化され、価格変動が排除されます。DjedはCOTIによって実装されています。
IOGはまた、相互運用性、プログラム可能性、スケーラビリティを前進させる革新的なソリューションを育成するため、他のUTXOベースブロックチェーンと提携してUTXOアライアンスを設立しました。UTXOアライアンスは、UTXOの機能を拡張し、ブロックチェーンの分野全体にわたってさらなる研究、開発、教育を促進するためのエコシステムを横断するイニシアチブを提供します。
インパクト
Bashoにおいて、Cardanoは業界屈指の性能、回復力、柔軟性を誇るブロックチェーンプラットフォームへと成長します。ネットワークインフラストラクチャーはサステナブルかつ安全に拡大し、ネットワークの中枢における信頼性を損なうことなく新たな機能性を追加する能力を得るのです。
Voltaire:自立性とガバナンス
Voltaireの中心にあるのは、分散型ガバナンスと意思決定です。Voltaireは、Cardanoコミュニティに、ネットワークの開発更新、技術的改良、プロジェクトの資金調達に関する決定権を提供します。Cardanoネットワークが真に分散化されるためには、Shelleyで導入された分散型のインフラストラクチャーのみではなく、長期にわたる維持と改良を分散化された方法で行うことができる機能も必要です。
Voltaireは、Cardanoネットワークが自立したシステムとなるために必要とされる最後のコンポーネントの実装に注力します。トレジャリーシステムの導入は、Cardanoを改良するための継続的で自立した資金源を確保するために設計されたコンポーネントの1つです。トレジャリーは、エポックごとに、ステークプールの報酬やコイン発行の一部、そして手数料からの一定の割合で補充されます。こうした資金がどのように使われるべきか、公正な意思決定を可能にするために、Voltaireは分散型ソフトウェア更新プロセスも導入します。これにより、ADA保有者は意思決定に参加し、システムの成長に影響を与える投票に積極的に参加することができるようになります。
この取り組みは現在進行中であり、IOGはすでに社会実験の実装とこれらのニーズに対応するエンジニアリングツールの設計に取り掛かっています。例えば、Cardano Improvement Proposals(Cardano改善提案:CIP)は、ソーシャルコミュニケーションシステムとしてVoltaire内で展開しています。これは、公式な技術指向の標準、コード、プロセスを説明するリソースを備えたオープンソースライブラリーとして機能し、透明性の高いオープンソース型の方法でCardanoコミュニティにガイドラインを提供します。
分散型ガバナンスに向けたもう1つの重要なステップは、提案と投票の手順を組み合わせてトレジャリーシステムの機能を支える、Project Catalystの立ち上げでした。Project Catalystは、イニシアティブとADA保有者により提案された改良をサポートし、同時に生産的な決定を下すために時間と労力を費やした人々に報酬とインセンティブを提供するための資金源を維持します。
インパクト
Voltaireは、Cardanoネットワークを民主化するために完全に分散化されたエコシステムを推進しながら、コンセプト、ツール、試みの拡大と開発に注力しています。すべてのコンポーネントを備えて、Cardanoはもはや設立団体の元を離れ、真に分散化されたプラットフォームになります。
Voltaireの最後のコンポーネントリリースとともに、Cardanoの将来はコミュニティの手に委ねられます。そしてその手には、IOGによって確立された安全で分散化された基盤から、Cardanoを成長、進化させるために必要なものすべてが握られているのです。
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