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Djed:実証済みの価格安定性のためのアルゴリズムステーブルコイン実装

フォーマル検証を使って価格変動を排除した初のコイン、Djed

2021年 8月 18日 Olga Hryniuk 10 分で読めます

Djed:実証済みの価格安定性のためのアルゴリズムステーブルコイン実装

暗号資産の変動は、普及の拡大を妨げている要因の一つです。ブロックチェーン技術は、透明性、データの不変性、そして、実証済みの金融業務のセキュリティといったメリットを提供します。しかし、市場予測やデジタル通貨の価格予想は、法定通貨よりも困難です。これにより、日常業務において暗号資産を会計や交換単位として使用することが妨げられています。

ステーブルコインは、法定通貨バスケットもしくは単一通貨(USDやEURなど)、金やシルバーなどの商品、株式、または他の暗号資産にペッグされた暗号資産です。ステーブルコインは、ターゲット価格から大きく逸脱しないように維持するメカニズムを備えており、この組み込まれたメカニズムによって変動が排除されるため、価値の保存や交換に役立ちます。

一部のステーブルコインはリザーブの透明性や流動性を欠いており、これが、価格の安定性を損なっています。こうした課題に対処するために、IOGは、Cardano設立時の三大パートナーの一社であるEmurgo、そして、Cardanoと同様のUTXOベースの会計システムを使うErgoブロックチェーンとチームを組んで、Djed(ジェド)と呼ばれるステーブルコインコントラクトに取り組んでいます。Djedはアルゴリズム型設計をベースにしています。これは、スマートコントラクトを使って価格の安定性を確保するもので、コインは分散型金融(DeFi)業務に役立つものとなります。

ステーブルコインの仕組み

さまざまなメカニズムがコインの価値の安定性と、価格差異の排除に貢献しています。こうしたメカニズムは、経済学的な需要と供給の原則に支えられています。

一般的なメカニズムは、ペッグに使用される通貨のリザーブによってステーブルコインを裏付けることです。需要が売買注文の供給よりも多ければ、価格変動を避けるために供給を増やすべきです。通常、ステーブルコインのリザーブは現金では保管されません。代わりに、債券などの有利子金融商品の形で保管されます。この運用益は、オペレーターの収益となります。

ステーブルコインがペッグした通貨のリザーブで完全に裏付けられている限り、そしてオペレーターが需要の変化に速やかに対応できる限り、価格の安定は維持されます。

一般的なリスク

ステーブルコインのリザーブは、一般に投資と関連しています。こうした投資の流動性が欠如すると、オペレーターが需要に素早く対応できなくなる場合があります。これにより、短期的に安定性が損なわれます。

法定通貨に裏付けされたステーブルコインの短所は、リザーブを管理している機関への信頼を必要とすることです。Tetherステーブルコイン(USDT)の場合、リザーブの透明性が欠けていたこと、そして「完全裏付け」を主張していなかったことが、安定化手段が不十分なことと相まって、図1に示されるように0.96米ドルを下回る価格下落を引き起こしました。

図1:Tetherステーブルコイン(USDT)の過去3年間の価格

透明性の問題は、裏付け資産がパブリックブロックチェーンの暗号資産である場合には生じません。さらに、スマートコントラクトを使用することで、その自動化された安全なメカニズムによって、安定化手段の効率的かつ確実な実行が保証されます。

Djedアルゴリズムステーブルコインの強化された安定化メカニズム

Djedは、自律型銀行として機能する、暗号資産に裏付けられたアルゴリズムステーブルコインコントラクトです。ベースコインのリザーブを保有し、ステーブルコインリザーブコインのミント(発行)とバーン(焼却)を行うことで機能します。コントラクトは、ステーブルコインの売買、リザーブの使用、手数料の設定によってステーブルコインのペッグをターゲット価格に維持します。手数料は、図2に示されるようにリザーブに蓄積されます。この収入の流れの最終受益者は、価格変動のリスクを負いつつ、資金でリザーブを潤すリザーブコインの保有者です。

図2:Djedの仕組み

Djedステーブルコインは、管理アルゴリズムとともに、法定通貨(USD)にペッグされた資産として設計されています。このアプローチによって安定した交換手段が提供されます。しかし、Djedはドルにペッグされたものに限定されているわけではありません。対応する価格指数をコントラクトに提供するオラクルが存在する限り、別の通貨でも機能します。

フォーマル検証を使用した初のステーブルコインプロトコル

Djedは、フォーマル検証を使用した、初のステーブルコインプロトコルです。プログラミング過程における形式手法の使用は、Djedの設計と安定性に大きく寄与しています。形式手法を使用することにより、プロパティは定理によって数学的に証明されます。

  • ペッグの上限および下限の維持:価格は設定価格を上回ったり下回ったりすることはありません。通常のリザーブ率の範囲内では、売買は制限されません。また、ユーザーには、流通市場でペッグ範囲外のステーブルコインを取り引きするインセンティブがありません。
  • 市場混乱時のペッグの堅牢性:リザーブ率に応じて設定された限度まで、ベースコイン価格が暴落してもペッグは維持されます。
  • 破綻なし:銀行が関与しないため、破産に至る銀行契約は存在しません。
  • 取り付け騒動なし:すべてのユーザーは、公正に扱われ適切に支払いを受けるため、先を争ってステーブルコインを還元するインセンティブはないことは明白です。
  • リザーブコインごとのエクイティは単調増加:条件によっては、ユーザーがコントラクトを操作するにつれて、リザーブコインごとのリザーブ余剰が増加することが保証されます。こうした条件下では、リザーブコイン保有者は利益を得ることが保証されます。
  • リザーブの流出なし:条件によって、悪質なユーザーが銀行からリザーブを盗む一連のアクションを実行することが不可能となります。
  • 有界の希薄化:リザーブコインの保有者数、および、リザーブコインの発行追加によるその利益の希薄化には、限度が設けられています。

Djedバージョン

Djedには2つのバージョンがあります。

  • ミニマルDjed:安定性を損なうことなく、できる限り単純、直感的、簡単に設計されたバージョンです。
  • 拡張Djed:安定性に追加的メリットを設けた、より複雑なバージョンです。主な違いは、最適なレベルでリザーブ率を維持することに対するインセンティブを強化する、継続的価格モデルとダイナミック手数料を採用していることです。

実装

IOG、Ergo、Emurgoのチームは、さまざまなモデルをテストするために、2021年初頭からDjedアルゴリズムステーブルコインコントラクトの実装に取り組んできました。

Djedステーブルコインコントラクトの初実装は、ErgoのSigmaUSDでした。これは、2021年1月にUTXOベースの台帳にデプロイされた、最初のアルゴリズムステーブルコインでした。売買操作には1%の手数料と、毎時交換率を更新するオラクルが設定されていました。この初期バージョンは、大量のERG(Ergoのネイティブコイン)を保有する匿名ユーザーによってリザーブ流出攻撃を受けました。この攻撃は結局成功せず、攻撃者の損失は100,000米ドルと見積もられています。

こうした攻撃をさらに抑制するために、このミニマルDjedの初期デプロイは別バージョンに置き換えられました。ここでは、手数料は2%、オラクルの更新は12分ごとで、価格差が50%を超えていない限りオラクル更新ごとに最大0.49%の価格変更ができるよう設定されました。これによって、リザーブ流出攻撃への耐性が強化されました。

Djedはまた、IOGチームによってSolidityにも実装されました。あるバージョンは、ベースコインとしてイーサリアムブロックチェーンのネイティブ通貨を使用し、別のバージョンではベースコインとしてERC20に準拠したトークンを使用しています。現時点でこれらの実装は、Binance Smart Chainのテストネット、AvalancheのFuji、PolygonのMumbai、イーサリアムのKovanとRinkeby、RSKのテストネットに配信されています。

Djed:Cardano実装

CardanoのAlonzo更新により、Plutusを使用したスマートコントラクトが可能になります。Plutusは、安全なフルスタックのプログラミング環境を保証するHaskellで作動しています。

ミニマルDjedの初期バージョンのドラフト実装は、Plutus言語で提供されます。この実装で、ステーブルコインとリザーブコインは、Djedプロトコルに従ってミントとバーンを制御する通貨ポリシーのハッシュによって一意に特定されるネイティブアセットです。この実装はまた、交換率などのオラクルデータがオンチェーンに送信される代わりに、署名済みデータとしてトランザクションに直接提供されることを前提にしています。

また、OpenStar実装も進行中です。OpenStarはScalaで開発されたプライベートの許可制ブロックチェーン用のフレームワークです。OpenStarを使用するDjedの実装は、オンチェーンで実行されるスマートコントラクトに頼らないステーブルコインをCardanoで保有するために、オフチェーンでスマートコントラクトを実行するという考えをフォローしています。

Djedステーブルコインの詳細は、最近公開された論文や、IOGテクニカルディレクターであるBruno Woltzenlogel Paleoが2021年のErgoサミットで行った発表をご覧ください。

本稿執筆に際しご協力いただいたBruno Woltzenlogel Paleoに謝意を表します。

Olga Hryniuk

Olga Hryniuk

Senior Technical Writer

Marketing & Communications