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Vasil:今後の展望

機能、パフォーマンス、スケーラビリティの向上。VasilアップグレードがCardanoにもたらすものとは

2022年 9月 16日 Tim Harrison 18 分で読めます

Vasil:今後の展望

Vasilアップグレードのデプロイまでおよそ1週間と迫りました。これにより、Cardanoの機能が大幅に改良、強化されます。Plutus v2の機能と強化によりDApp開発者は新しいエキサイティングな体験を生み出すことが可能となり、拡散パイプラインによってスループットとネットワーク容量拡大の可能性への鍵が開かれます。

Cardanoエコシステム全体で、Vasilに向けた準備は着々と続けられてきました。IOGのコアエンジニアリングチーム、Cardano財団、SPO、DApp開発者、取引所は徹底したテストと統合への取り組みを続け、良好な結果が得られています。IOGとCardano財団の共同チームはハードフォークコンビネーターを使用して、9月22日にプロトコルレベルでVasilをデプロイします。新しいPlutusコストモデルを伴う新機能(ノードとCLIによる参照インプット、インラインデータム、参照スクリプト、担保アウトプットのサポートを含む)を開発者がメインネットで使用できるようになるのは、正確に1エポック後となる9月27日です。

セキュリティ、正確性、効率

整然としながらもエキサイティングな旅でした。Cardanoの開発は定義された段階(「開発期」)を経て進化しました。最初に、セキュリティと正確性の基礎。次に、機能、スケーラビリティ、そして、表現力。Byron連合期、そしてコアプラットフォームを再構築したByronリブートは、2020年夏のShelleyアップグレードで終わりを遂げました。Shelleyによって、Cardanoは世界で最も分散化の進んだプルーフオブステーク型プラットフォームへと変容し、アクティブなステークプールは3,000を数えました。

2021年、MaryアップグレードによりNFTとマルチ資産機能が導入され、今日までに600万の固有のネイティブトークンを擁する、ブロックチェーン界で有数の活気に満ちたNFTコミュニティが形成されるきっかけとなりました。

2021年秋のAlonzoアップグレードではPlutusスクリプト言語を使用したスマートコントラクト機能を実装し、現在1,000を超えるプロジェクトをCardanoで構築しているエコシステムが確立されました。

Plutusスクリプトの強化

Vasilは、Plutus v2を通じてCardanoスマートコントラクトを強化します。これで、現在でもパワフルなスマートコントラクトプラットフォームにさらなる効率性が追加されます。VasilはEUTXOモデルを活用して、より高速で洗練されたDAppを実現します。

このアップグレードは、当初から野心的で協力的な取り組みでした。コミュニティはCIP(Cardano改善案)プロセスを通じて、数多くの改良を要求し、実際に推し進めてきました。これにより、Cardanoに構築する開発者コミュニティの活力と成長途上の姿が更に示されました。

Vasilがもたらす主要な追加機能は以下の通りです。

  • 参照インプットCIP-31):これはオンチェーンのデータ共有を可能にするものです。以前はデータムはトランザクションアウトプットで運ばれました。データムにより情報はブロックチェーン上に保存され、アクセスが提供されました。しかし、このデータムの情報にアクセスするには、データムを添付したアウトプットを使用する必要がありました。このため、送信アウトプットを改めて作成する必要がありました。参照インプットの追加により、開発者は余分なステップなしにデータムを参照することができるようになりました。これにより、UTXOの消費と再作成を必要とせずに、ブロックチェーンに保存された情報へのアクセスが提供されます。これはたとえばOracleに役立ちます。
  • インラインデータムCIP-32):トランザクションデータムは、これまでアウトプットにハッシュとして添付されていました。インラインデータムの実装によって、開発者はスクリプトを作成し、ハッシュの代わりにデータムを直接アウトプットに添付できるようになりました。これにより、ユーザーは所与のハッシュと一致するデータムを指定する代わりに実際のデータムを確認できるため、データムの使用方法が簡素化されます。
  • 参照スクリプトCIP-33):Alonzoでは、Plutusスクリプトにロックされたアウトプットを使用する際に、支払いトランザクションにスクリプトを含む必要がありました。これによりスクリプトサイズは増加し、処理に一定の遅延が生じていました。参照スクリプトのアップグレードにより、開発者はトランザクションごとにスクリプトを含めなくても、スクリプトを参照できるようになります。これで、トランザクションサイズが大幅に削減され、スループットが向上し、スクリプトの実行コストも節約できます(スクリプトの支払いが1度で済むため)。
  • データムとリディーマー:Vasilアップグレードに続き、開発者は、現在実行中のスクリプトにパスされる1つではなくすべてインプットのリディーマーを表示することができるようになります。
  • データシリアル化プリミティブ:新しいserialiseData(CIP-42)PlutusプリミティブはメモリーおよびCPUのコストを全般的に削減し、最適化の進んだ汎用のデータシリアル化を可能にします。

コミュニティはこれらPlutusの更新を心待ちにしています。Indigo ProtocolLiqwid FinanceMaladexといった待望の新DeFiプロジェクトは、v2機能が立ち上がればこれを活用することを意図しています。また、その他多くの現行のプロジェクトは、コードをアップグレードして新機能をフルに活用する予定です。このような幅広い分野に及ぶ改良は、第4四半期以降、Cardanoエコシステムにまったく新しいDAppと新たに改良されたDApp(更新および監査後)のデプロイが始まることを意味しています。

効率が向上した新しいPlutusインタープリターによって、新しいPlutusコストモデル(9月27日からオンチェーンでアクティブ)は、v1、v2両方のDAppのコストを下げます。これらのメリットの程度は個々のDAppによりますが、DApp開発者の初期報告によれば非常に期待できます。現在Cardanoで実行されているNFTプロジェクトであるArtanoは、最近ブログで広範なテストの結果を公開しました。Plutus v2を活用した場合、スクリプトのサイズが90%以上縮小され、これに対応してコストが75%以上削減されました。

その他の強化

スクリプト担保調整(CIP-40)により、トランザクションの検証が改善されます。以前は、担保額はトランザクション手数料の150%に設定されており、担保UTXOに差額が返金されることはありませんでした。すなわち、スクリプトがフェーズ2検証で失敗した場合、DAppユーザーは担保に選択されたUTXOに保存された全資金を失うことになりました。

Vasil後は、DApp開発者はスクリプト担保用に釣銭用アドレスを指定することができるようになります。スクリプトがフェーズ2検証で失敗しても、担保額のみが徴収され、残りの資金は釣銭用アドレスに送金されます。

拡散パイプライン

IOGはネットワークパフォーマンスを調整、改善するために、2022年を通じてすでに一連の堅実で慎重なパラメーターの最適化(ブロックサイズやスクリプトメモリーユニットの増加など)を実行しました。その結果、ネットワークのパフォーマンスは高まり、負荷は一貫して必要な範囲内に収まっています。

拡散パイプラインは、ブロック伝播の高速化を促進するコンセンサス層のさらなる改良です。Vasilの一部としてデプロイされる拡散パイプラインは、ブロック生成のヘッドルームを増やすことができ、Cardanoのパフォーマンスと競争力のさらなる向上を可能にします。スクリプト検証プロセスはさらに調整、最適化され、ブロック伝播時間の安定化とトランザクション処理の高速化を実現します。拡散パイプラインは、ブロック伝播時間を削減しスループットを高めることによって、さらなる調整の余地を広げます。

拡散パイプラインは、ブロック生成から5秒以内(安全なセキュリティ「シーリング」)にネットワークにブロックを共有(伝播)できるようにすることによって、実質的にネットワーク参加者間における新規生成ブロックについての情報共有を合理化しています。拡散パイプラインは完全な検証前にブロックを伝播させます。すなわち、拡散にかかる時間と検証に必要とされる時間をオーバーラップさせています。

パイプラインはまた、前ブロックのハッシュを参照するブロックヘッダーを正しく伝播します。ブロックのボディは次のブロックに含まれるメタデータに保持されますが、これは完全なブロック承認なしのDDos攻撃耐性に不可欠です。

究極的に、拡散パイプラインはさらなるパフォーマンスの向上を可能にすることによってスケーラビリティを高めます。平たく言えば、これは引くことができるもう1つのレバーです。そしていつものように、ゆっくりと着実に、測定しながら変化を起こすことがカギとなります。コミュニティテストによって機能が強化されるため、アップグレード直後にアクティビティが「急増」することが予想されます。監視は、ハードフォーク後の少なくとも4エポックの間継続され、その時点で「通常」のネットワーク帯域幅に基づき、さらなる調整に関して判断することになります。

「d」パラメーターの削除

2021年3月31日以降ブロック生成は完全に分散化されていますが、Vasilアップグレードではdパラメータが完全に削除されるため、分散化が永続的に固定され、将来再び連合型に戻ることが防止されます。

セキュリティの最適化

VasilはOuroborosのVRF(検証可能なランダム関数)処理を最適化します。Vasil前には、ブロック検証にはネットワークホップごとに2つのVRF関数が要求されました。Vasilはこのうち1つの関数を不要とし、結果としてブロック検証時間とネットワークの同期時間が全体的に短縮されました。ユーザーはセキュリティ設定に妥協することなく、パフォーマンスの向上を体感しています。

テストの夏

Vasilは、いくつかの観点から、複雑な作業の集合体であると言えます。まずコアエンジニアリングの分野に関しては、ネットワークスタックのすべての層に影響を与える、IOGチームがこれまでに試みた中で最大規模のアップグレードです。その結果、すべてのダウンストリームコンポーネント(DB-sync、ウォレットバックエンド、Rosettaなどを含む)を更新し、完全なリグレッションテストを行う必要がありました。

また、考慮すべきエコシステムの利害関係者は複数に及びます。アップグレードが安全かつ確実であること、およびCardanoエコシステム全体のプレイヤーが完全に準備が整っていることを確認することは、常に最優先事項です。IOGは明確な計画に従って進めていますが、ソフトウェアエンジニアリングの性質とこれらの依存関係により、予想よりも時間がかかる可能性があります。

これを念頭に、IOGとCardano財団は最近、ハードフォークコンビネーターイベントの日程を「公開」する前に、エコシステムの準備を確実にするため、最終段階におけるいくつかの明確なクリティカルマス指標に合意しました。

以下がその指標です。

  1. メインネットブロックの75%が最終Vasilノード候補版(1.35.3)で生成されること
  2. およそ25の取引所がアップグレードされること(ADAの流動性の約80%を占める)
  3. TVLによるトップ10DAppがプリプロで1.35.3へのアップグレードを確認し、メインネットへの準備が整っていること

これらのメトリクスに対する追跡は進行中です。最初に「ボックスにチェック」が入ったのはSPOコミュニティで、98%のブロックが現在新しい1.35.3ノードで生成されており、設定された最低閾値を凌駕しています。本稿執筆時点で、取引所の流動性は60%近くにのぼり、多くの主要な取引所がアップグレードに向けた準備が整っている、もしくはその最中であることが確認されています。チームはこの点に関して確信を持っています。IOGは多くの主要なDAppプロジェクトと協力してその準備状況を追跡していますが、ここでも状況は良好です。技術コミュニティの最近の調査により9月22日の準備が整っていることが確認されたため、メインネットのアップグレード日が合意されました。

今後の予定

これから合意されたハードフォーク実施日までの間には、いくつかの事柄が起こる必要があります。初期のVasilテスト専用に立ち上げられたVasil DevNetは現在廃止されました。新しいプレビュー環境は、コミュニティが前に進むためのアジャイル開発プラットフォームとなり、プリプロ環境はメインネットをより細かく反映しています。プリプロ環境でのアップグレードの成功が、メインネットのハードフォークに至る最終段階となります。

デプロイタイムラインと主要日程

技術的なタイムラインは以下の通りです。

VasilはCardano5周年となる月に到来し、ブロックチェーン機能における変革を表しています。ただし、CardanoをトランザクションやDAppのために使用している通常のADA保有者は、何もする必要はありません。これはほぼ舞台裏で起こることだからです。Cardano独自のハードフォークコンビネーター(HFC)技術により、エンドユーザーのアップグレードはシームレスで手間のかからない出来事になります。単に、効率の向上とトランザクション処理時間の高速化を楽しみにしていてください。

本稿執筆時点で、取引所の流動性はおよそ60%です。 IOGのCardano財団取引所チームはこの数値がアップグレード時までに80%の閾値に近づくと見ていますが、ネットワークのアップグレード時にシステムのアップグレードが済んでいない取引所にADAを保有している場合は、サービスの中断を経験することになる可能性があります。個人の流動性を重要視している場合、IOGはアップグレード済みの取引所の追跡または取引所のカスタマーサポートページを参照することを推奨しています。

根底にある重要性

このアップグレードは、2021年に惜しくも亡くなったCardanoアンバサダー、故Vasil St. Dabov氏に敬意を表して名付けられました。Vasil氏はブルガリアの数学者、プログラマー、博学者、自然保護論者であり、生涯で10,000本以上の木を植え、2019年に故郷のプロヴディフでCardano2周年記念式典を主催しました。

9月22日が1908年にオスマン帝国からブルガリア国家が独立を宣言(ヨーロッパで最古の国家に数えられる)した記念日でもあることは、とくに胸を打ちます(完全に偶然ですが)。この最も重要なアップグレードにさらに意味を添える、明確な目標を持った確固たるコミュニティにとっての「嬉しい偶然」です。

IOGのTwitter YouTubeでアップグレードの進捗状況を確認してください。IOGのすべてのチームからCardano財団とCardanoコミュニティへ向けて、変わらないサポートに感謝します。本稿執筆に協力いただいたOlga Hryniuk、Fernando Sanchez、Kevin Hammond、Nigel Hemsley、Vitor Silvaの各氏に感謝します。

Tim Harrison

Tim Harrison

VP of Community & Ecosystem

Communications