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Cardanoのスケーラビリティを支える研究の分析

IOG研究の詳細4 -レイヤー1とレイヤー2のソリューションがスピードと回復性を増したブロックチェーンを生み出す仕組みとは

2022年 7月 19日 Olga Hryniuk 13 分で読めます

Cardanoのスケーラビリティを支える研究の分析

はじめにこちらをお読みください。

以前のブログでは、Cardanoの多機能台帳による表現力豊かなスマートコントラクトネイティブ資産のサポートを可能にする基礎研究を掘り下げました。

Basho開発期の一環として、Cardanoは、スケーラビリティと相互運用性を高めるためのアップグレードと最適化を着実に進めています。ブログ記事「2022年Cardanoをスケーリングする方法」では、Cardanoのスケーラビリティの目標を考察するとともに、相互運用性とサイドチェーンの役割についても議論しました。本稿では、これらの漸次的強化を可能にする研究に注目します。

Cardanoのスケーリング

スケーラビリティはブロックチェーンネットワークが拡大するユーザーベースをサポートするため、また、スループットを犠牲にすることなく成長するために不可欠です。

通常ブロックチェーンのスケーリングは、すべての状況やプロジェクトに応えるために、多様なソリューションを使った複合的なアプローチを必要とします。例:

  • レイヤー1ソリューション:アップグレードはメインチェーンプロトコルに直接適用される
  • レイヤー2ソリューション:メインチェーンの性能を促進させる追加的なチェーン(サイドチェーン)またはレイヤー2ソリューション(ZKロールアップ)

レイヤー1スケーラビリティソリューション

パイプラインとインプットエンドーザーは、2022~2023年にCardanoに実装が予定されている2つのオンチェーンソリューションです。パイプライン研究の詳細を記した論文はまだ公開されていませんが、パイプラインの紹介として、その特質と理論を一部示します。

Ouroborosにおけるパイプライン

パイプラインとは何かを理解するために、まずブロック伝播という用語を定義しましょう。ブロック伝播とは、ブロック生成ノードがネットワーク中に新しいブロックについての情報を配布することです。

パイプラインはブロック伝播にかかる時間を向上させます。目標は、5秒以内にブロックをピアに伝播させることです。パイプラインは、ダウンストリームピアへ送信されるブロックを事前通知する機能をノードに持たせ、ピアが新しいブロックボディを事前にフェッチできるようにすることによりこれを可能にします。

研究は、ブロックが完全に検証される前に、ブロックのボディを伝播させるという案を提示しています。これは、ブロック伝播の重要なパスからブロックボディの検証作業を取り、検証にかかる時間が、ネットワークで次のピアにブロックを送信する時間とオーバーラップできるようにします。これでブロックの伝播時間が削減され、さらにはブロックサイズの拡大やPlutusの改良などにつながります。結果として、ブロックのサイズが大きい程、より多くのトランザクションやPlutusスクリプトを運ぶことができ、ブロックチェーンのスループットにも影響を及ぼすことになります。これらのアップグレードは、VasilハードフォークイベントでCardanoに適用される予定です。

インプットエンドーザー

インプットエンドーザーの実装もブロックの伝播時間とスループットを向上させます。インプットエンドーザーは送信されたすべてのトランザクションを追跡し、これらのトランザクションを事前に構築されたブロックにまとめます。すなわち、トランザクションを含むブロックと、コンセンサスに達したブロックという2セットのブロックが存在することになります。コンセンサスを実行するブロックは事前構築されたブロックを参照します。これらはコンセンサスに達するのを待つ必要なく、コンスタントにストリームされます。これにより、ブロック伝播時間の一貫性が向上し、より高いトランザクションレートが可能になります。

IOGの前Cardanoアーキテクチャディレクター、John Woodsは次のように語っています。

パイプライン実装は、まさに素晴らしいテクノロジーです。合成ベンチマークでは、最大40%の効率向上が見られます。これは2022年にいかにCardanoが需要を満たすスケーリングをするかという物語の中の素晴らしい要素となります。2023年には、ゲームチェンジャーとなるOuroboros Leios(インプットエンドーザー)が登場します。インプットエンドーザーは今後5年間にわたり、Cardanoをスケーリングしていくことになるでしょう。

階層的価格設定

IOGサイエンティストによるもう1つの研究イニシアティブは、階層的価格設定の実装です。現行のシステムでは、すべてのトランザクションは同等に扱われ、たとえば高額のガス料金を支払うことにより優先されるといった可能性はありません。このアプローチは、ネットワークのスループットがトランザクション処理の需要に見合う限り機能します。しかし、ネットワーク使用量が増加するにつれ、すべてのトランザクションが最終的にブロックチェーンに含まれるわけではなくなる可能性も出てきます。公正なトランザクション処理を利用して悪質なスパムを合法的なトランザクションとして通過させるサービス拒否(DoS)攻撃の可能性により、ネットワークの健全性をサポートする追加的措置が必要となります。

階層的価格設定は、アジャイルな方法で安定したシステムパフォーマンスを可能にします。これはとりわけ、DoS攻撃の防御に関連します。この研究では、より大きなネットワークの需要から生じる可能性のある問題を軽減しながら、Cardanoトランザクションの予測可能性、公平性、そしてコスト効率を維持することを提案しています。このアプローチにより、各ブロックを3つの「階層」に分割する(ユースケースに基づく)という、新しいトランザクション手数料メカニズムが提示されます。各層は、トランザクションのタイプ別に、最大ブロックサイズのパーセンテージに応じて、フェア、バランス、即時の3つに設定されます。ネットワークが混雑していないときは、階層は標準のトランザクション優先順位に初期設定されています。

レイヤー2スケーラビリティソリューション

一度に処理できるトランザクションの数をスケーリングできるよう、ブロックチェーンネットワークは、たとえばサイドチェーンの数を増やしたり、ステートチャネルを導入したり、ステークに基づく閾値マルチシグスキームを適用したりすることができます。

サイドチェーン

論文「Proof-of-Stake Sidechains(プルーフオブステークのサイドチェーン)」は2019年に発表されました。この論文は、サイドチェーンシステムとは何か、そして、どのようにして資産を安全にサイドチェーン間で移動できるかについて、初めて公式に定義しました。

IOGの研究者は、既知のトランザクション台帳の持続性と活性のプロパティを、複数の台帳にまたがり維持するセキュリティ定義を提示しました。これは、大惨事につながる恐れのあるサイドチェーン障害の影響力を制限することで、各ブロックチェーンをサイドチェーンから保護するものです。本論文ではまた、プルーフオブステークのサイドチェーンシステムに適していると同時に、Ouroborosコンセンサスプロトコルとも調和するサイドチェーンの構造も提供しています。ステーキングのマージ、クロスチェーン証明書、マルチシグ使用といった技法が、悪質な攻撃に対するサイドチェーンの回復性を確保するために提示されています。

この研究の結果、IOGはCardano EVMサイドチェーンを開発しました。現在テストネットでアルファバージョンが稼働しています。これはイーサリアムのツールやライブラリーと互換性があり、開発者は、CardanoでSolidityスマートコントラクト、DApp、ERC20トークンを作成でき、コスト効率、スケーラビリティ、セキュリティといったメリットを得ることができます。

Hydra

サイドチェーンの他にも、ネットワークのスケーラビリティを向上させるソリューションがあります。たとえばHydraステートチャネルです。

研究論文「Hydra: Fast Isomorphic State Channels(ハイドラ:高速同型ステートチャネル)」は2021年に発表されました。この論文では、同型マルチパーティステートチャネルであるHydraを紹介しています。ステートチャネルはブロックチェーンのスループットとレイテンシを向上させる魅力的なレイヤー2ソリューションです。Hydraは、レイヤー1スマートコントラクトシステムを直接採用することにより、オフチェーンプロトコルとスマートコントラクトの開発を簡素化します。この方法で、オンチェーンでもオフチェーンでも同じコードを使用することが可能になります。EUTXOモデルを活用することで、この研究はHydra Headを進化させるために、高速のオフチェーンプロトコルを開発する方法を提案しています。Hydra Headプロトコルは現在Cardanoに実装中です。

Mithril

最後になりますが、より優れたスケーラビリティを達成するためには、アプリケーション間のデータ同期の速度と効率を合理化することも重要です。これに対処するために、2021年、IOGの研究チームは論文「Mithril: Stake-based Threshold Multisignatures(ミスリル:ステークに基づく閾値マルチシグ)」を発表しました。

ブロックチェーンというセッティングにおいてより優れたスケーラビリティを達成するためには、効率的なチェーン検証が不可欠です。これはまた、ネットワークバリデーターが署名するさまざまなメッセージにも依存します。Mithrilは、多数の参加者に対数的に依存する重要な操作の複雑性に対処します。特定のメッセージを検証するのにかかる時間、そしてチェーン同期の検証段階におけるリソースの使用を考えたとき、Mithrilはセキュリティ機能を損なうことなくマルチシグの集約を素早く効率的に実行するソリューションを提供します。

論文では、マルチシグの集約中に強力なセキュリティ設定を維持する方法を考察しています。結論として、Mithrilは高速、効率的、そして安全なチェーン同期プロトコルのために適用することができます。安全な投票、サイドチェーン間のデータ交換、ライトウォレット内でのデータ同期に有利です。これはBasho開発期の一部であり、2022年に実装される予定です。

終わりに

現在、IOGの研究ライブラリーには144本の論文が格納されており、この数は増加しています。すべての研究はこれまでも、これからも、Cardanoにあらゆる機能やアップグレードがデプロイされる前の基礎を築きます。

今後数か月内に、台帳の最適化、スケーラビリティの向上、ガバナンスのイニシアチブに関する最新の開発や研究について解説します

Olga Hryniuk

Olga Hryniuk

Senior Technical Writer

Marketing & Communications