数か月前、Wanchainのチームは、Cardanoメインネット、Cardanoサイドチェーン、その他異種のブロックチェーンネットワークとの相互運用性を可能にする方法を話し合うべくInput Output Global, Inc.(IOG)へ打診しました。
その最終目的は、Cardanoエコシステムと、Wanchainのネットワークに囚われないブロックチェーンの相互運用性ソリューションの普及を促進させ、Web3の未来をサポートするために、さまざまなブロックチェーンで機能する真のRealFi(リアルファイ)アプリケーションに必要なインフラを構築することです。
これが複数のチームからのインプット(およびアウトプット)を必要とする重要なタスクであることは、すぐに明らかとなりました。確かに、Cardanoと他のブロックチェーンをつなぐことは複雑な事業であると予想されました。というのも、Cardanoは他のほとんどのブロックチェーンネットワークと、基本的に異なっていたためです。Cardanoの特異点は以下の通りです。
スマートコントラクト環境およびプログラミング言語:EVMやSolidityではなく、PlutusとHaskellを使用
トランザクションモデル:アカウントベースモデル(イーサリアム式)ではなく、UTXOモデル(ビットコイン式)を使用
署名と楕円曲線:ShnorrやSecp256k1ではなく、EdDSAとCurve25519をサポート
こうした違いのそれぞれについて個別に稿を立てて論じるべきところですが、ここでは、これらの要因が組み合わさって、Cardanoの相互運用性の可能性を限定する独特な障壁となっていると言うにとどめておきます。
幸運なことに、エンジニアというものは難題を好むものです。
IOG、Wanchain、MLabs(業界最高のHaskell、Rust、ブロックチェーン、AIコンサルタント)のチームが協力してCardanoを相互運用可能にするための実行可能なプランを描き、Cardano用の相互運用性ソリューションの基盤を据えた現在、ここまでに至るエキサイティングな事業について、その詳細の一端を紹介するのに適したタイミングとなりました。
本稿では、Cardanoと異種のブロックチェーンネットワークとを接続するための基本的なインフラを説明し、新しいサイドチェーンソリューションを紹介、さらに、プロジェクトの短期長期的ロードマップを提示します。
Wanchain:広域ブロックチェーンネットワーク
ます、Wanchainについて紹介します。Wanchainはサステナブルなレイヤー1 PoSブロックチェーンであると同時に、分散型のブロックチェーン相互運用性ソリューションです。Wanchainレイヤー1 PoSブロックチェーンは、業界標準のイーサリアムツール、DApp、プロトコルで機能する、完全なイーサリアム型環境です。重要なのは、Cardanoとの結びつきがあることです。Wanchainは、Galaxyコンセンサスというプルーフオブステークコンセンサスアルゴリズムを使用します。これは、分散型秘密共有や閾値署名など、ランダムナンバー生成やブロック生成メカニズムを向上させるためのさまざまな暗号スキームを活用しています。世界レベルの研究者や学者が開発したGalaxyコンセンサスは、Cardano独自のOuroborosの延長線上にあります。
一方、Wanchainブリッジは分散型の直接的なノンカストディアル型ブリッジで、EVMと非EVM両方のネットワークをリレーチェーンや仲介ネットワークなしに接続します。これらのブリッジは、クロスチェーンアセットを守るためにsMPC(セキュアマルチパーティコンピュテーション)とShamirのSecret Sharingを組み合わせて使用します。現在、15を超えるレイヤー1およびレイヤー2ネットワークがWanchainブロックチェーンネットワークによって接続されています。
基礎となる構成要素1:Cardanoクロスチェーンブリッジ
Cardanoのクロスチェーン相互運用性ソリューションの構築に必要な最初の要素は、Cardanoと他のレイヤー1ブロックチェーンをつなげる分散型、ノンカストディアル型、双方向性のクロスチェーンブリッジです。
クロスチェーンブリッジはアセットやデータをソースチェーンからターゲットチェーンへと転送します。最も基本的な形としては、通常ソースチェーンでアセットをロックし、ターゲットチェーンで同価値のラップドアセットをミント(発行)します。これを私たちは、Lock-Mint-Burn-Unlock(ロック-ミント-バーン-アンロック)メソッドと呼んでいます。Lock-Mint-Burn-Unlockメソッドを機能させる際は、3つの主要なスマートコントラクトがデプロイされます。すなわち、ソースチェーンでソースアセットを処理するもの、ターゲットチェーンでターゲットアセットを処理するもの、管理チェーンでブリッジノードの登録とステーキングを処理するもの、の3つです。
不慣れな人のために、下の図1でソースチェーンからターゲットチェーンへのトランザクションを図解しています。簡潔にまとめれば、ユーザーがクロスチェーントランザクションを始めると、ターゲットチェーンとターゲットアドレスが特定されます。ソースチェーンのスマートコントラクトがソーストークンをロックし、Lockイベントを発行します。ブリッジノードはLockイベントを検知し、ターゲットチェーンのスマートコントラクトに指示してターゲットチェーンで同価値のトークンをミントします。
図1:基本のクロスチェーントランザクション
トークンをソースチェーンに戻すには、トークンの所有者はターゲットチェーンのスマートコントラクトに“redeem”トランザクションを送信します。ターゲットチェーンのスマートコントラクトはラップドトークンをバーン(廃棄)して、Burnイベントを送信します。ブリッジノードはBurnイベントを検知し、ソースチェーンのスマートコントラクトに指示してソースチェーンでトークンのロックを解除します。Wanchainブリッジノードはパーミッションレスで、マルチパーティコンピュテーションとステーキングを使用して共謀を防ぎます。
上記の通り、Cardanoは基本的に異なる要素が複数あり、クロスチェーンブリッジをデプロイする作業を複雑にしています。この問題に、IOG、Wanchain、MLabsは次のように取り組んでいます。
異なる仮想マシンとプログラミング言語:EVMやSolidityではなく、PlutusとHaskellを使用
Wanchainの得意分野は、完全に異種のブロックチェーンを接続することです。現在のクロスチェーンインフラには、すでにEVM(イーサリアム、Wanchain)、WebAssembly(Polkadot)を使用するブロックチェーン、さらに、仮想マシンを使用しないブロックチェーン(ビットコイン、XRP Ledger、Litecoin)が含まれています。可能な場合、この問題はソースチェーンとターゲットチェーン双方にネイティブなスマートコントラクトを開発することによって解消しています。またはネットワークがスマートコントラクトをサポートしていない場合、WanchainブリッジノードはsMPCを使用した専用のロックアカウントを共同で管理します。Wanchainの常に変化するパーミッションレスブリッジノードのセレクションは、次に、必要に応じて、両チェーンのスマートコントラクト(またはロックアカウント)と通信します。
異なるトランザクションモデル:アカウントベースモデル(イーサリアム式)ではなく、UTXOモデル(ビットコイン式)を使用
Wanchainブリッジノードには異なるブロックチェーンと接続するためのアダプターがあります。アダプターは、目的のブロックチェーンのトランザクションモデルに基づいてトランザクションを作成することができます。IOGが提供するAPI仕様によって、WanchainはスマートコントラクトをCardanoで呼び出すためのトランザクション形式を定義できます。
署名と楕円曲線:ShnorrやSecp256k1ではなく、EdDSAとCurve25519をサポート
これはCardanoの相互運用性ソリューションにとって最大の依存関係であることが証明されました。Cardanoは元々ShnorrやSecp256k1ではなく、EdDSAとCurve25519をサポートしていました。WanchainとMLabsの要請により、Input Outputは、CardanoにSchnorr署名とSecp256k1曲線のネイティブサポートを加えるよう社内で取り組みました。両方とも、CardanoのVasilハードフォーク後に公に利用可能となります。
基礎となる構成要素2:追加的セキュリティ、CardanoサイドチェーンとしてのWanchain
先般イーサリアムの共同設立者Vitalik Buterinは、ブリッジは基本的にセキュリティに限界があるため、自分としてはクロスチェーンアプリケーションに悲観的であるとコメントしました。Wanchainはこの結論には同意しませんが、懸念自体はもっともです。そのため、クロスチェーンブリッジを保護し、Cardanoの相互運用性ソリューションのセキュリティを最大化するために、特別な配慮がなされています。
ここから、Cardanoのクロスチェーン相互運用性ソリューションを構築するために必要とされる2つ目の要素が導き出されます。Wanchainブリッジノードは、Cardanoのクロスチェーンブリッジとトランザクションの安全性を高めるために、WanchainとCardanoのネットワークをペッグできるようアップグレードされます。簡単に言えば、Wanchainは、CardanoにとってのEVM対応サイドチェーンとして機能することになります。
Cardano-Wanchainのペッグは、2段階のマークルトランザクション認証に基づきます。この証明メカニズムには以下のコンポーネントが含まれます。
Cardanoにデプロイされるステータス管理コントラクト
ブリッジノードはWanchainブロックチェーンデータの有効性を認証し、マークルルートを計算し、定期的にCardanoにマークルルート値を保存する役割を果たす
2段階マークルツリー証明
2段階マークルツリー証明は、Cardanoに保存された圧縮データを使ってWanchainのトランザクションの正しさを証明するために使用されます。この2段階証明には、FSP(ファーストステージ証明)とSSP(セカンドステージ証明)の2つのコンポーネントがあります。FSPは、txがそのトランザクションマークルルートbhとともに、Wanchainブロックに保存されていることを証明するために使用されます。SSPは、bhがWanchainにあるブロックの有効なトランザクションマークルルートであることを証明します。FSPとSSPを組み合わせることによって、txがWanchainの有効なトランザクションであることが証明できます。この手順を下図2で示します。
図2:2段階証明の検証パス
Tx1の正当性を証明するために、2段階証明は次のように構築されます。
FSPの構造:
FSP={Tx1, Tx2,Tx34,LRoot3}
SSPの構造:
SSP={LRoot3,LRoot4,LRoot12}
2段階証明の構造:
2StageProof={FSP,SSP}
次の方程式を満たす時、2段階証明は有効です。
LRoot3=SHA256(SHA256Tx1,Tx2,Tx34);
Root=SHA256(LRoot12,SHA256LRoot3,LRoot4);
この新しいアプローチはCardanoの相互運用性ソリューションの安全性を最大化するだけでなく、スケーラビリティソリューションとしても機能します。トランザクションを安全にCardanoから移動させ、安全性と不可変性を確保するために必要な情報のみをレイヤー1に記録することができるようになります。
短期長期的ロードマップ
Cardanoメインネット、Cardanoサイドチェーン、そしてその他の異種ブロックチェーンネットワークの間に完全な相互運用性を可能にすることは、長期的なプロジェクトです。したがって、このプロジェクトは急激な変化ではなく、段階的な改良によって定義されます。
最初の基本的なCardano-Wanchainブリッジは、WanchainでラップドADAがミントできるよう、テスト環境で数か月にわたり提供されます。CardanoのVasilハードフォーク後に、これらのブリッジはメインネットにデプロイされます。
図3:テスト環境のラップドADA
その間、WanchainをCardanoの正式なEVM対応サイドチェーンにする作業が続けられます。2段階マークルトランザクション検証が配置されると、Wanchainは現在Cardanoで実行されているアプリケーションのためのスケーラビリティソリューションとして位置づけられることになります。
時間の経過とともに、下図4で示されるような完全なCardano-Wanchain相互運用性トポロジーが形成されます。
図4:Cardano-Wanchain相互運用性トポロジー
トポロジーの最下層は、Cardano、イーサリアム、Polkadot、ビットコインといったレイヤー1ブロックチェーンで形成されます。これらはすべて、既存のWanchainクロスチェーンブリッジで接続されます。縦方向には、レイヤー1からレイヤー2ネットワーク、そしてArbitrum、Polygon、Optimisticなどのサイドチェーンへ接続されます。レイヤー2またはサイドチェーンレイヤーは、トークンやRealFiプロジェクトのホストとして最適です。このレイヤーでブリッジをまたぐアセットは、目的とする場所に達するために、レイヤー1ネットワークを介する必要がありません。Wanchainはすでに複数のこれらレイヤー1、レイヤー2、そしてサイドチェーンからサイドチェーンへのブリッジをデプロイしています。
Cardano独自のサイドチェーン戦略が成熟していくにつれ、現在構築中の相互運用性ソリューションはCardanoのクロスチェーンおよびサイドチェーンのニーズに応えることができるようになります。
Wanchainについて
Wanchain(Wide Area Network chain)は、分散型ブロックチェーン相互運用性ソリューションです。その使命は、世界中のサイロ化された多数のブロックチェーンネットワークを接続する、完全分散型、ノンカストディアル型のブリッジを構築することによる相互運用性を通じてブロックチェーンの普及を推進することです。Wanchainは、開発者に、Web3の未来を推進する真に分散化されたクロスチェーンアプリケーションを構築する力を与えます。
ウェブサイト | ブリッジ | ドキュメント | Telegram| Twitter | ニュースレター | ブロックチェーンエクスプローラー | 開発者ポータル
免責事項:本稿に含まれる情報は、関心のある事柄に関する一般的なガイダンスのみを目的としています。これに含まれる資料は情報提供のみを目的に提供されており、投資アドバイスとして解釈されるべきではありません。
最新の記事
Input | Output chief scientist receives prestigious Lovelace computing award 筆者: Fergie Miller
3 December 2024
Delivering change in Ethiopia: lessons and reflections 筆者: Staff Writer
28 November 2024
Applying formal methods at Input | Output: real-world examples 筆者: James Chapman
26 November 2024