2015年に開始されて以来、Cardanoプロジェクトには「暗号資産の設計および開発方法を変える」という明確な目標があります。単一の公式な白書を持つ代わりに、このプロジェクトは、堅固で先駆的な、研究に基づくブロックチェーンを生み出すために、科学的な設計原則とエンジニアリングのベストプラクティスを幅広く組み合わせました。Cardano開発の主要概念は、「なぜカルダノを構築するのか」、そして、Charles Hoskinsonによる動画「Cardano whiteboard」で提示されています。この研究に立脚したアプローチにより、Cardanoは他とは異なる固有なブロックチェーンプラットフォームと位置付けられています。
一連のベストプラクティス、アイデア、貢献が、安全で分散化された、スケーラブルな台帳を構築するためのCardanoの基礎を形成しました。現在、豊富な研究論文がInput Output Globalのライブラリーページに収録されており、本稿執筆時における数は139を数えています。その多くが査読済みであり、トップレベルの学術会議で認められています。Google Scholarによれば、大本となるOuroboros論文は1,200回以上も引用されています。
研究論文
IOGのCharles Hoskinson CEOは次のように語っています。
分散化は世界の金融システムに重大な技術的課題を課しており、IOGリサーチはそのすべてに関心を持っています。
IOG Researchのビジョンは、ブロックチェーンインフラとフィンテック、そしてより広範には、暗号手法で守られ、経済ゲーム理論を介したインセンティブを備える分散型システムの学術研究をけん引する機関となることです。IOGは一般的に難しい研究課題への取り組みで、特にフィンテックブロックチェーンインフラ業界のための信頼できる正式な基盤の構築で定評を得ています。
本稿では、Cardanoの基盤となるいくつかの論文について紹介します。
Ouroboros(ウロボロス)
プロジェクトの研究を推進する最初の論文は、学術的に査読を受け、Crypto 2017で公開された「Ouroboros: A Provably Secure Proof-of-Stake Blockchain Protocol」です。
コンセンサスは、ブロックチェーンネットワークの心臓部に位置付けられます。OuroborosはCardanoのプルーフオブステークコンセンサスプロトコルです。その名は、永遠、そして終わりのない回帰を示す古代の象徴に由来します。Cardanoにとって、Ouroborosはブロックチェーンの理論的永続性を象徴します。
2017年以来、多数のOuroborosプロトコルバージョンが作成されています。各Ouroboros「フレーバー」が、Cardanoの進化を支えるためにさまざまな機能を追加しています。Ouroboros Classic(クラシック)に始まる台帳は、定期的なアップグレードを行ってきました。Ouroboros Classicは、連合型設定でエネルギー効率の高いプルーフオブステークコンセンサスプロトコルの基盤を確立しました(Cardano Byronの開発テーマ)。Praos(プラオス)、Genesis(ジェネシス)、Chronos(クロノス)は、完全にパーミッションレスな設定においてセキュリティを確実に強化するために設計されました。GenesisはPraosプロトコルの改良版ですが、Chronosが実装されることによりさらに堅牢になります。このブログ記事では、Ouroborosの進化について詳細に説明しています。
独自のテクノロジーと数学的に検証されたメカニズムを組み合わせたOuroborosは、プルーフオブステークに適応させた「Nakamoto式コンセンサス」を実現しています。Ouroborosは、ビットコインのプルーフオブワークコンセンサスで知られた安全性と堅牢性を保証しながら、エネルギー消費の観点からより優れた効率を提供します。ブロック生成のためにマイナーが複雑な計算問題を解くことに依存する代わりに、プルーフオブステークの参加者はネットワークで自分たちが管理するステークに基づきブロックの生成および検証を行います。
IOGのチーフサイエンティストでありエディンバラ大学のサイバーセキュリティおよびプライバシー講座を担当する Aggelos Kiayias教授は、ブログ記事「Ouroboros、分散化への道 」で次のように述べています。
Ouroborosは、ビザンチンおよび合理的行動の両コンテクストにおいて分析される、分散型台帳プロトコルである。プロトコルを唯一無二のものにしているのは、ステーク、ダイナミックアベイラビリティ、トラストレス設定、報酬共有インセンティブスキームといった設計要素の組み合わせである。
委任とステークプール
連合型から完全分散型へ移行するためには、プロトコルの調整が必要でした。(ステーク委任手法を可能にするための)適切なアカウント管理方法と、インセンティブを付けた参加手段を提供することが不可欠でした。
2020年に公開された論文「Account Management in Proof of Stake Ledgers」は、ネットワークの維持活動におけるステークホルダーの参加を最大化する方法を検討しています。
一般に、プルーフオブステークブロックチェーンはステークホルダーのアクティブな参加に依存するものです。ステークホルダーは、ネットワークのトランザクションを検証し、新しいブロックを生成するために、常にオンラインである必要があります。しかし、すべてのステークホルダーが、恒常的にオンラインでいられるわけでも、これを望むわけでもありません。このような条件下でもシステムの堅牢性と安全性を恒常的に確保するためには、異なるタイプのステークホルダーの参加を可能にすることが重要です。
ステークの委任はこの問題に対処し、ユーザーが自分のステークを他の参加者に委任することによって、ネットワーク活動に参加することを可能にします。ステーク委任は、複数のステーク保有者のステーキング権を保有するサーバーノード、ステークプールを生み出します。論文は委任手法を数学的に分析、定義するとともに、安全な支払いを処理するためにウォレットのコアプロパティを実装します。
2020年に公開された論文「Reward Sharing Schemes for Stake Pools」も、ステーク保有者に活動のためのインセンティブを付けるメカニズムを紹介しています。
ステークプールの力は、そこに委任されたステークの蓄積から生まれます。ネットワーク検証活動が1つのプールに独占されることを避けるためには、ネットワーク参加者が多様なプールに幅広く委任するようインセンティブを付けることが肝要です。
報酬共有スキームは、トランザクションの検証、ブロックの生成など、ステークプールオペレーター(SPO)とデリゲーター(委任する側)の活動に適切なインセンティブを付ける手段を説明します。研究は、提案された報酬メカニズムによってネットワークが望ましい分散化レベルに誘導され、特にシビル攻撃への耐性が高められることを示しています。これは、いわゆる「出資メカニズム」によって可能となります。これは、現実世界における単一のユーザーが複数のステークプールを管理する意欲を大幅にそぐものです。
Cardanoのインセンティブモデルは、理性的な参加者がプロトコルに従うことによって利益を得ることで、Cardanoブロックチェーンの安全で効率的な稼働を可能にするようなエコシステムを確立しました。その結果、暗号化技術とゲーム理論の報酬メカニズムに保護された、動作の安定した分散型台帳が実現します。
ご期待ください。次稿では、関数的スマートコントラクトプラットフォームの基礎を確立した研究論文に注目します。具体的には、拡張UTXOモデルを可能にした研究から始め、この意味するもの、そして、台帳がマルチ資産と手数料を処理する仕組みを、ユーザーへのさまざまなメリットとともに紹介します。
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