ブラックホーク空へ:ハリケーン「へリーン」を受けて英雄達を輸送
2024年 10月 29日 10 分で読めます
9月26日夜、ハリケーン「ヘリーン」がアメリカ合衆国東海岸を席巻した。メキシコ湾の非常に暖かい表面温度によって勢力を増したへリーンは天候システムカテゴリー4(米国本土に上陸したハリケーンとしては2005年のカトリーナ以来最強)としてフロリダのパンハンドル部を強襲。深刻な豪雨、強風、高波をもたらした。
続く48時間にわたって、ヘリーンは北北東に進路を取り、ジョージア州を横切り、テネシー州東部とバージニア州南部の地域を掠め、ノースカロライナ州とサウスカロライナ州西部の広大な地域を蹂躙、大きな傷跡を残した。前線は山岳地帯に集中豪雨を降らせ、鉄砲水を引き起こし、インフラや家屋が流された。不運なことに、アパラチア南部と中央部では36時間雨が降り続いた後にへリーンにより豪雨がもたらされ、洪水がさらに深刻化した。直後の被害としては200万人以上が停電にあい、不幸にも死者が出た。
この荒廃の中、へリーンの猛威が去るとともに救助活動が始まった。場所によっては屋上まで達したとてつもなく高い洪水の水位に加えて、被災地の多くが荒れた山岳地形であったため、少なくとも当面の間、道路と地上車両の使用は完全に論外であった。これに代わり、救助活動の主力となったのはヘリコプターである。安全性が確認されるや、航空機が飛び回り、浸水した家屋から取り残された民間人を空輸し、分断された地域に重要な物資を届けた。
その中の1機が「ブラックベティ」である。Input | OutputのCEO、Charles Hoskinsonが所有するブラックベティは、へリーン一過の複数の州での救出作戦に参加した。
これはハリケーン「ヘリーン」直後のブラックベティとその乗組員の物語である。
勇気、英雄、市民の義務の物語
機体
ブラックベティはUH-60A+ブラックホークモデルであり、+記号は双発エンジン、アビオニクス、飛行制御装置の大幅な改良を示している。1980年代に組み立てラインを立ち上げて以来、この機体はさまざまな戦場に向けて6つの海外配備を行い、「不朽の自由」や「砂漠の嵐」などの作戦に参加した。ブラックベティは2017年にHoskinsonがオークションで買い取り、1977年のラム・ジャムのヒット曲にちなんで名づけた。2021年2月、Hoskinsonはベティのシステムの多くを現在の技術標準に改修した。本機は日常的に消防活動に使用されている。
エイヴリー:美しいが危険な地域
地理的に見て、エイヴリー郡は田園部と山岳地帯からなる。郡全体がアパラチア山脈の中にある。エイヴリー郡の最高地点は海抜6,165フィート(2.4m)のグラシー・リッジ・ボールドだ。見事な景観を誇る一方、荒々しい地形は、尾根や谷を流れ落ちる水により、定期的に大きな洪水を引き起こしている。水が流れ込むと、ぬかるんだ地面が激しくえぐられ、恐ろしい土砂崩れに変わる。この災害は1969年のハリケーン「カミーユ」と1992年の「アンドリュー」で発生した。
しかし、へリーンはエイヴリーの歴史に新たな自然災害の記録を刻んだ。9月24日から27日までハリケーンは猛威を振るい、風速75km/時、瞬間風速は110km/時に達した。この風が至る所で電柱や基地局を破壊する一方、豪雨により変圧器がショートし、事実上郡全体の電力を遮断した。
エイヴリー住民を支援
2024年10月11日午前10時26分ブーン郡空港、視界良好、晴天
前日数機の発電機を納入したリンカーン郡空港から飛来したブラックベティは、ブーン郡空港の滑走路に佇んでいる。機体の滑らかな形状が、夜明け前の光に幽く浮かぶ。乗組員たちが地元の航空交通管制、救援活動を支援するために特別に配置された軍人、サマリタンズ・パースの代表者らとその日の任務について話し合いをするうちに、ベティの胴体に最初の陽光がきらめいた。
ラム・ジャムとスレイヤーがエンジン始動シーケンスを開始し、飛行前のチェックリストを実行すると、ブラックベティのツインターボシャフトエンジンが唸り声をあげ、4枚羽根の回転翼がゆっくりと速度を上げていき、やがて最大回転数に達する。この時点で、翼端の速度は毎秒728フィート(222m)だ。
この任務ではラム・ジャムが左の機長席に、スレイヤーが右の副操縦士席に着く。今回クルーチーフを務めるのはバン・バ・ラム。狭いLZ(着陸地帯)に着陸する際に機体の安全を確保する。本機はボトルウォーターや医療機器など切望される緊急物資、ウェストヤンシー郡の救援拠点バーンズビル消防局向けの4基の発電機などを運ぶ。
飛行前のチェックを終え、スレイヤーはコレクティブをそっと引いて上昇を始めた。ベティは素直に地面を離れる。スレイヤーはサイクリックとコレクティブを操作して航空機を回転させ、前進するために機首を下げる。そしてベティは、約92マイル(148km)離れたエイブリーに向かって飛行を開始した。
被災地へ向けて
スレイヤーはベティを巡航速度およそ170m/時、高度は地形に合わせて地上300〜500フィート(91~152m)で飛行させた。眼下に広がる景色は灰色に変わり、特徴がなく、黙示録のようだ。破壊された橋が見える。膨れ上がった水に完全に押し流されてしまったものもある。浸水した建物、中には水が屋上ぎりぎりまで達している。携帯電話の基地局が倒壊し、送電線、断線したワイヤーが洪水の中で蛇行している。へリーンの猛威がもたらした被害はいたるところ甚大で、今日の救援任務の緊急性を浮き彫りにした。
ベティはわずか数分の飛行時間でエイヴリーに到着した。
午前10時51分エイヴリー空港ハブ
モリソンフィールドとも呼ばれるエイヴリー郡空港は、スプルースパインの町から北に4マイル(6.4km)にある。ここにある1本のアスファルト滑走路(17/35)は、嵐の被害をほぼ受けておらず、地元住民にとっての重要なライフラインとなった。固定翼機もヘリコプターも、物資と人員を届けるために妨げられることなく着陸できる。
空港自体が大規模な物流センターとなっていた。献身的なチームが休みなく働き、消耗品を整理し、もっとも深刻な被災地に資源を割り当てている。エイヴリー空港は地元住民が必要とする避難所も提供していた。中にはすべてを失った住民もいた。こうした被災者は、ここに来てまず必要な物資を無料で手にすることができる。オムツ、薬、水、さらには州内各所から生産者が持ち込んだ新鮮な農産物まである。ボランティアのチームが24時間体制で被災者を支援している。
ベティは滑走路に着陸したもののローターは全速力で回転を続けている。エイヴリーに長居はしないためだ。救急隊員が近くに設置された仮設の医療テントから現れ、ベティのクルーに緊急で必要とする医療物資のリストを手渡す。ベティはまたすぐに飛び立ち、ヤンシー郡に向かう。ここで発電機を届け、エイヴリーの医療チームに頼まれた物資を調達するのだ。
ヤンシーへのフライト
ベティはかつて高速道路19号線であったものにほぼ沿う形で南へ飛ぶ。路面のほとんどは、嵐のピーク時に洗い流されてなくなっている。
道中、乗員達はへリーンの猛威の最も恐ろしい爪痕を目撃する。狭い川が流れる谷や峡谷が点在することで流れ込んだ水が押し上げられさらに勢いを増すエイヴリー郡の地形によって、この山岳地帯の集落が受けた被害は拡大した。どこもかしこも荒廃していたが、そこには人間の持久力と回復力も見られた。乗組員たちは、物資を配達するために水の上に浮橋を作っている地元民の集団を目にした。
午前11時14分バーンズビル消防署着陸
ヤンシー郡とミッチェル郡の住民の多くが、ヘリーンの影響で立ち往生している。19号線のような主要道路はもはや存在しない。他の車道は破損しているか通行不能である。それなのに、こうした住民の多くが慢性疾患や嵐による怪我のために、医療処置を必要とするかもしれない。こうした人々の一部は、Medevac社の航空機によって、バーンズビル消防署のすぐ隣に設置されたボランティアの野外病院に運ばれた。
ベティの飛行経路に沿って走る送電線を慎重に避けていく。バン・バ・ラムは機体が近くの広い空き地に安全に着陸し、発電機を届けられるように、窓から身を乗り出して回転翼の周りに危険なワイヤーが残っていないかを確認する。
午後12時34分スワナノアのLZ基地へ
本日の任務、次のステップはスワナノアのLZに飛ぶことだ。この専用エリアは、地元のハーレーダビッドソンディーラーのすぐ隣に用意されている。ここには地元民が設立した大規模な物流センターがあり、35機の大型ヘリが数日間にわたって出入りし、被災地周辺に物資を輸送している。道路清掃隊や死体犬隊もスワナノアをベースに活動している。この前線基地では、エイヴリー救急隊員が必要とする物資を調達するため、ベティの乗組員たちは地元の医療チームと連絡を取る。ベティは翌日、重要な医療物資をピックアップして、再びエイヴリーに運ぶのだ。
「喜びに満ちた顔」
へリーンはノースカロライナ州やその他の地域に大混乱を引き起こしたが、ベティによる救出活動、救助活動から生まれた心温まる話はまだある。ベティがとあるLZに停留していた時、子供連れの家族が、補給と乗組員たちの作業に対して感謝を伝えにきた。子供たちはベティに乗り込み、喜びに満ちた顔で機内の構造を見回していた。悲惨な状況にもかかわらず、クールな機械の中にいるという事実に驚嘆しながら。
輸送された物資
10月11日現在の納入物資の集計
- 大型発電機36台
- 水、食料、医療、雑貨7トン分
- 通信を回復するためのStarlink装置、World Mobileと共同で複数のエリアに設置
任務完了
任務を果たしたベティと乗組員は10月15日にワイオミング州の基地に向かって西へと飛び立ち、2日後に到着した。
サム、マーク、コーリー、アルトン、クレイグたちが行った勇敢な仕事は私たちの誇りである。このチームによる活動は、Fox Newsで視聴できる。IOの皆を代表して、最近のハリケーンに被災したすべての皆様へ心よりお見舞いを申し上げる。
援助を考えている場合は、アメリカ赤十字をはじめ、この自然災害によって引き起こされた緊急のニーズに取り組む組織に寄付することができる。
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