ブロックチェーンの11の原則:ブロックチェーン権利章典に向けて
2024年 10月 11日 9 分で読めます
ブロックチェーンシステムの設計は挑戦的な試みである。そしてこれは継続的なプロセスでもある。ブロックチェーンシステムは長寿であり、その寿命の間に進化する要件を捕捉することを目的としているからだ。そのため、ブロックチェーンプロジェクトのコミュニティは、ブロックチェーンシステムの未来をさまざまな方向に「フォーク」させるような難しい決定に直面することが多く、その結果を完全に予測するのは難しい。コミュニティの意思決定には、さまざまな形で相互に対立し影響を与え合う可能性のある高度に技術的な提案を評価することが頻繁に必要となる。
ブロックチェーンプロジェクトやそのコミュニティが上記の課題に対処するにあたっては、「第一原理」アプローチが有用である。これは、コミュニティメンバーがシステムのユーザーおよび貢献者として享受できると期待する基本的権利を反映するものとしてコミュニティに広く受け入れられた一握りの一般的原理(または「原則」)に、特定の改善提案が合致しているかどうかを評価するものだ。この方法論は、さまざまな改善提案を、コミュニティがシステムに対する基本的な期待とどの程度整合しているかに基づいて検討、分類、優先順位付けするための、共通の基盤と考え方を提供する。
この考え方を紹介するにあたり、ここではブロックチェーンシステムとはどのように動作し、ユーザーや貢献者と関与するようものであるかを包括的にカバーすることを目的として、11の原則について議論する。この原則とは、こうしたシステムに当然期待されるものとそのユーザーの権利を捕捉するものである。これは必ずしも相互に互換性を持つ、あるいはアルゴリズム的に強制可能な形で表現されるものではないことに留意して欲しい。これは必然である。というのも、これは憲法や人権法においても起こりうることであり、ここでは専門家はさまざまな、時に両立しえない権利とその適切な解釈を比較検討し、ケースバイケースで最善のバランスを見出さなければならない。実現可能なシステムでは、11の原則すべてを同時に完全な形で具現化することはできないことが予想される。最終的には、ある特定の時点で、与えられた改善提案の文脈において、どのようなトレードオフと解釈が最も適切かを決定することがコミュニティに委ねられる。
次に11の原則を挙げる。各原則には短い説明を付している。
原則1(T1)- トランザクションは、遅延させたり検閲したりすることはできず、意図された目的に従って適切に処理される。これは、言論の自由に似たものと考えてもいいだろう。この意味では、トランザクションはユーザーがどのようにシステムに関わりたいかという方法を表現するものである。したがって、ユーザーは自由であり、意図に即した形でそれを行うことができるべきである。これは検閲を除くものだが、適切な処理を義務付けるものでもある。
T2 - トランザクションのコストは予測可能であり、不合理であってはならない。トランザクションを転記するためにシステムがコストを課すことは想定されるが、そのコストはトランザクションの目的から見て不合理ではなく、ユーザーが長期的なシステム使用を計画できるように予測可能であるべきである。
T3 - 誰もが意図したとおりにアプリケーションを開発してデプロイすることを妨げられるべきではない。システムおよびその開発環境とエコシステムは、さまざまなバックグラウンドやスキルを持つユーザーが、自分の意図を真に捉えたアプリケーションを立ち上げられるようサポートし、こうしたアプリケーションが適切に動作するために必要な機能へのアクセスを提供する必要がある。
T4 - システムに対するあらゆるインプットと貢献は、公正に認識、記録、処理、評価される。システムは、その動作のすべてをサポートするために必然的にリソースの支出を必要とするが、メンテナンス、開発、またはトランザクション処理時間に関してさまざまなシステム貢献者が提供する価値を公平に計上し、必要に応じて適切に報酬を提供できるようにする必要がある。同様に、一部のユーザーがインプットの扱い方に偏った影響を与えることなく、トランザクションも公正に処理されるべきである。
T5 - ユーザーが提供または作成した価値とデータは、ユーザーの同意なしにロックまたは処理されない。似たような例として、欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)の文脈におけるデータポータビリティの権利が挙げられる。ユーザーは、自分が関与したい任意のシステムまたはプラットフォームに自分の個人データを転送することを許可されるべきとされる。ブロックチェーンシステムの場合、ユーザーが所有または作成する資産にも同じことが適用されるべきである。同様に、システムはユーザーの同意を得て、ユーザーの資産とデータを処理する方法に関して取る行動を完全に理解したうえで稼働させることが重要である。
T6 - システムは、格納されている値と情報を安全に保存する。ここでの安全性とは、次の2つの方法で解釈できる。(i) 記録されている情報の完全性。例えば、ユーザーの鍵を侵害する可能性がある量子攻撃の可能性を予測し、この軽減を保証する必要がある。(ii) 価値の保全。例えば、不安定な市場を見越して、ユーザーは資産の価値を維持するためにステーブルコインのようなメカニズムを使用するオプションを持つ。
T7 - リソースが不必要に費やされることはない。 これはリソース最小化の目的として理解されるべきである。つまり、この原則にとって重要なことは、所与のタスクに最適なアルゴリズムを見つけることだ。システムが所与のタスクに必要以上の資源を浪費することは望ましくない。
T8 - システムは、ユーザーを公正に扱い、その長期的な持続可能性と実行可能性を目指す集合的意志に従って進化する。この原則は、システムのユーザーと貢献者が、公正な代議的方法でそのガバナンスと開発に参加する権利を指す。
T9 - ユーザーのプライバシーは、行動とデータの両面で保護されるべきである。この原則は、関連するデータ保護法、例えばEUの一般データ保護規則(GDPR)に存在するプライバシー要件に似たものと考えるとよく理解できる。この文脈で例えとして役に立つのは、ユーザーが同意した特定の目的を達成するために必要な最小限の情報開示を求めるデータ最小化原理である。
T10 - システムは、ユーザーが現地の法律や規制に違反することを必要としない関与の仕方を提供する。ブロックチェーンシステムは本質的にグローバルであるため、多くの管轄区域にまたがることから、多様で複雑な規制要件が課される可能性が想定される。このような状況に対応するために、ユーザーは、活動する法域の法律に違反することを要求しないシステムに関与するためのツールを提供されるべきである。
T11 - システムは、透明性があり予測可能、検証可能、解釈可能であり、偏りなく作動しなければならない。この原則は、ユーザーが観察、検証、予測、理解できる方法でシステムが作動することを義務付けるものである。これは、システムソフトウェアはオープンソースであるべきであり、提供されるバイナリは公に検証可能であることを示唆している。ここで、個々のユーザーが他の参加者によって実行されたすべてのアクションを完全に検証または信頼することはできないながらも、システムが提供するサービスは、同様のレベルの透明性と検証可能性に対応しなければならないことも義務付けられている。さらに、特定のユーザーが不当に優位に立ち、他のユーザーがアクセスできない特権を享受することがあってはならない。
これで、11の原則は完成する。
まとめ
上記の原則を活用するための方法の一つは、ブロックチェーン改善提案がそれらとどのように整合しているかを評価することである。提案が与えられた場合、評価者は例えば、それが実装された場合、いくつかの原則に関してシステムの動作が改善されるかどうかを検討する。さらに、改善を実施するために必要なリソースを鑑み、改善の具体性と重要度を評価する。さらにはその改善提案が、他のいくつかの原則に関してシステムを悪化させることになるかもしれない。このような場合には、システムの現状と比較して、提示されたトレードオフがシステムの将来にとって好ましいかどうかを問うことができる。
場合によってはそのような議論が単純ではなく、その過程で特定の提案を巡ってコミュニティが二極化する可能性も想定される。ブロックチェーンシステムの広さと範囲を考えると、議論は不可避かつ重要である。
このアプローチに従うことを選択した場合、さまざまなブロックチェーンコミュニティが、その価値観と目的を最もよく反映する方法で上記の原則を解釈し、尊重することになるだろう。例えば、年末にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催される憲法制定会議でのCardano憲法条文の精緻化、最終決定、承認に先立ち、世界中で開催される一連の憲法ワークショップの一環として、これらの原則は現在Cardanoコミュニティによって活発に議論されている。この原則が、Cardanoや他のブロックチェーンコミュニティにとって進んでいこうとする先にある遥かな地平のビーコンとなり、最終的に目的地に到達することを可能にすることを願っている。
この原則を深く掘り下げ、Cardanoに関する会話に参加したい場合は、日本時間10月31日(木)1:30に、Intersectが主催するXスペースに、Aggelos教授とCharles Hoskinsonと共に参加してください。詳細はXをフォローして確認してください。
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