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IOGの研究が学術界にいかに広まっているか

業界の難問に専心して取り組むブロックチェーンインフラとエンジニアリングの大手企業IOG

2022年 10月 25日 Olga Hryniuk 23 分で読めます

IOGの研究が学術界にいかに広まっているか

IOGは、Cardano、そしてその最初のネイティブ暗号資産であるADAの構築で名を上げました。5年にわたりプルーフオブステーク型ブロックチェーンをリードしてきた安全でスケーラブルな分散型台帳の基盤となるのは学術研究です。

世界各地の研究者や名門大学との協力のもと、IOGは難しい研究課題への取り組みに専心し、フィンテックブロックチェーンインフラ用の堅固な基盤を確立しています。本稿では、分散化技術の研究に携わっている機関や研究所のネットワークの確立について考察します。

IOGの研究を率いるのは、IOGのチーフサイエンティストであり、エディンバラ大学教授のAggelos Kiayiasです。教授、科学者、リサーチフェロー、リサーチエンジニアなどからなる研究チームは、以下を初めとする幅広い研究テーマに取り組んでいます。

  • 暗号理論
  • ソフトウェアエンジニアリング
  • 分散型システム
  • 人間とコンピューターのインタラクション
  • ネットワーク
  • フォーマル検証
  • プログラミング言語
  • 信頼できるハードウェア
  • 経済
  • セキュリティ、外国為替、ビジネスに関するポリシーおよび規制

チーフサイエンティストの役割

Kiayias教授2016年10月、チーフサイエンティストとしてIOGに参加。最大5人の実行チームを結成しました。また、エディンバラ大学のサイバーセキュリティおよびプライバシーの教授職も保持しています。Juan Garay、Nikos Leonardosと共同執筆した論文「The bitcoin backbone protocol: Analysis and applications」は、技術史上最も参照された論文に数えられるなど、就任時、ブロックチェーン界においてその名声は揺るぎないものでした。Google Scholarによれば、この論文は現在までに1,800回を超える引用がなされています。当初から、Kiayias教授は最高の思想やアイデアを吸収しながら、Cardanoを一から構築することを決意していました。当時、彼は次のように述べています。

他社は近道を考えたり、製品のエンジニアリングだけに焦点を当てたりするかもしれないが、IOHKは、コミュニティ全体が利用できる基本的なツールの構築と、ブロックチェーンシステムを支える科学の推進に長期的にかかわっている。

ブロックチェーン技術と分散型システムに加えて、Kiayias教授の関心は、コンピューターセキュリティ、情報セキュリティ、暗号理論、電子投票、安全なマルチパーティプロトコル、そして、プライバシー管理とID管理にまで及んでいます。2006年、コネチカット大学時代、彼の学科は当局との協力の下、コネチカット州知事選で使用する投票マシンの評価を行いました。この評価で、悪意を持って使用すれば選挙結果に影響を及ぼす可能性のあるシステムの脆弱性が報告されました。Kiayias教授は、ギリシャ国政選挙における電子投票の調査でも研究プロジェクトを率いた実績があります。

IOGのチーフサイエンティストとして、Kiayias教授はブロックチェーン研究、とくに既存の分散型台帳技術を調査し、実証されたセキュリティ、分散化、プライバシーといった特徴を持つ技術実装のアイデアの提案をけん引しています。これはOuroborosを支える理論へと繋がり、その安全性を証明した論文も、最も引用されたブロックチェーン論文に数えられることになりました。2017年、Kiayias教授がエディンバラ大学でブロックチェーンのコースを開講したことで、同大学はブロックチェーン技術を教えるヨーロッパ初の機関として名を連ねることになりました。教授はFinancial Timesで次のように語っています。

ブロックチェーンを構築するために必要なスキルを学ぶだけでなく、この技術を学ぶことには他にも利点があります。ブロックチェーンを学ぶだけで、サイバーセキュリティに関する膨大な知識を得ることができるのです。

2021年までに、エディンバララボには9人のスタッフ、21人の研究者や博士課程の学生が在籍するようになりました。この年の後半、Kiayias教授は、IOGのPhilip Wadler教授に続き、エディンバラ王立協会(the Royal Society of Edinburgh)のフェローに選出されました。1783年設立という歴史を誇るこの協会には、1914年以来米国の100ドル札に使用されているベンジャミン・フランクリンや、19世紀に最も影響力を持った物理学者のジェイムズ・クラーク・マックスウェル、産業革命に不可欠であった蒸気機関の生みの親ジェイムズ・ワット、そして、亜原子粒子の研究がヒッグス粒子の発見につながったノーベル賞受賞者ピーター・ヒッグスらが名を連ねています。

IOGの学術的つながり

IOGでは、研究は技術開発の一環であり、関数的正確さに基づく高保証のブロックチェーンソリューションの提供に役立っています。

IOGから資金を得て、欧州連合、Intel、英国エンジニアリングおよび物理科学評議会がエディンバラにブロックチェーンテクノロジー研究所(Blockchain Technology Laboratory)を設立しました。これは、業界に刺激を受けたオープンアクセスの分散型システム研究で協力している米国、日本、ギリシャの大学ネットワークのハブです。

ブロックチェーン技術研究所ネットワークのメンバーは以下の通りです。

  • エディンバラブロックチェーン技術研究所
  • アテネ大学ブロックチェーン技術研究所
  • 東京工業大学暗号通貨共同研究講座
  • ワイオミング大学ワイオミング先進ブロックチェーン研究所

これらの研究所は、証明可能安全性、暗号プリミティブおよびプロトコル、ゼロ知識証明技術分散性、安全なマルチパーティコンピュテーションなど、ブロックチェーンおよび暗号技術関連分野に焦点を当てています。研究所ではまた、新しいプロトコルを開発したり、新しいセキュリティ定義や暗号モデルの特定や形式化も行っています。

現時点で、エディンバラ研究所のメンバーによる百を超える論文が学会で認められています。ZK SNARK、ブロックチェーンガバナンス、プルーフオブユースフルワーク、中央銀行デジタル通貨といった研究テーマが、今後数年のうちにそれぞれブロックチェーンシステムに組み込まれていくことは疑いようがありません。研究所のブログは、Covidの感染追跡や銀行への潜在的影響など、ブロックチェーン外の多くのセクターを取り上げています。

研究ネットワークの拡大

研究分野によっては、極めて特殊な専門知識が必要となります。IOGの研究の評判は、現在トップレベルの協力者を惹きつけられるほどとなっています。この例として、ゲーム理論が挙げられます。これに関してIOGは、オックスフォード大学のElias Koutsoupias教授と協力しています。教授は2012年、無秩序の代償に関する研究でアルゴリズム型ゲーム理論の基礎を敷き、ゲーデル理論計算機科学賞を受賞しています。

2022年、IOGはスタンフォード大学と提携し、450万ドルを調達して同大学にブロックチェーン研究ハブを設立しました。これにより、スタンフォードのさまざまな分野の研究者たちが、ブロックチェーンの基本的な問題に取り組み、科学的知識を照合し、このテーマに関する研究の基本的な必要性を促進します。

これに加えて、IOGは以下のような専門研究プロジェクトにも携わっています。

  • ブロックチェーンコンセンサスアルゴリズムの設計と分析:コネチカット大学のAlexander Russell教授と協力して、ブロックチェーンコンセンサスアルゴリズムのさまざまな設計を調査
  • 高速データ散布のためのEclipse耐性ネットワークオーバーレイ:アテネ経済商科大学のSpyros Voulgaris博士と協力して、効率的なデータ散布を調査
  • 検証可能なデジタル導出:スタンフォード大学のDavid Tse教授と博士課程研究者と協力して、基礎と応用両方でブロックチェーン研究を強化
  • 検証済み(ペアリングベース)EC暗号:アイントホーフェン工科大学のTanja Langeとその学生たちと協力して、Elligatorフレンドリー、ペアリングフレンドリーな埋め込み曲線に取り組む
  • プルーフオブユースフルワーク用制約ベースのローカル検索:コネチカット大学のLaurent Michel教授と協力
  • ウォレットの鍵管理メソッドに対するユーザーの受容度の評価:カーネギーメロン大学のHuman Computer Interaction Instituteで教授連と研究者からなるチームとのプロジェクト
  • 集団的ステークベース署名のパフォーマンス向上:ボストン大学のLeonid Reyzin教授と協力

会社レベルで学術的提携を確立するだけでなく、IOGのトップ、Charles Hoskinsonは常日頃から形式手法数学と研究に個人的な関心を寄せています。カーネギーメロン大学のJeremy Avigad教授との協力の下、Leanプロジェクトの形式手法数学は拡大し、Hoskinson Center for Formal Mathematicsの設立に結実しました。センターは、Hoskinsonによる2000万ドルの寄付により可能となりました。彼は、カーネギーメロン大学の発表に次のようにコメントしています。

私たちは、数学、コンピューター科学、機械学習の最高の頭脳を結集して、形式手法数学を教育ツールの核として使用するためのインフラを創り出すことができます。コラボレーション、調査、発見が、数学的活動にインセンティブを付けサポートし、先進的な自動化メソッドのためのリソースを提供することへの扉を開く、このような重要なセンターの設立の一端を担えて光栄です。

終わりに

IOGのチームは世界中に分散し、集団的取り組みを通じたイノベーションを推進するために、世界各地の一流大学の研究者とつながっています。この取り組みにより、Cardanoや他の台帳の開発が促進され、技術の普及とクロスチェーンの相互運用性に役立ちます。

500名近い社員のうち、39名がIOHK、IOGのGoogle Scholarにプロフィールを持っています。この多くがエンジニアリングや学術的ポジションにあり、研究の実践において当社の専門知識の深さを実証しています。IOGのリサーチライブラリーには、現在200本を超える論文が収納されています。

現時点で、IOGは広大な学会ネットワークと研究の影響力を持つ唯一のブロックチェーン研究開発会社です。

Cardanoの研究概要の詳細は、Essential CardanoのIOG研究概要をご覧ください。

本稿の執筆にご協力いただいたAggelos Kiayias、Mirjam Wester、Anthony Quinnの諸氏に感謝いたします。

主要出版物

ブロックチェーン技術研究所ブログ

  • Pool splitting behaviour and equilibrium properties in Cardano’s rewards scheme(Cardano報酬スキームにおけるプール分割動作と平衡特性):Christina OvezikとAggelos Kiayias共著による、分散化、とくにシステムインセンティブへのその依存性に焦点を当てた論文。また、ブロックチェーン技術研究所との共同研究に導かれ、第一原理的アプローチに沿って設計されたプルーフオブステーク型ブロックチェーン、Cardanoの事例を考察している。
  • Comparison of alternative reward schemes for Cardano(Cardano代替報酬スキームの比較):Christina OvezikとAggelos Kiayias共著による、Cardano台帳用の代替報酬スキームに関する考察。議論されているスキームは、Carddanoコミュニティのメンバーから提案されたもの(CIP-7CIP-50)。本稿では、各スキームのモチベーションと違い、そして、パフォーマンス比較実験を紹介している。
  • Turning academic research into cutting-edge technology: Blockchain Technology Laboratory and the Cardano ledger(学術研究を先端技術へ:ブロックチェーン技術研究所とCardano台帳): Aggelos Kiayias著。ビットコインなどのブロックチェーン台帳におけるエネルギー効率、分散化、スケーラビリティ、プライバシー、プログラム可能性、規制コンプライアンスの諸問題を考察。次に、ビットコインと同レベルの分散性と包摂性をほんのわずかなコストで達成しうるブロックチェーンプロトコルの概要を提供している。ブロックチェーン技術研究所とIOGの取り組みの結果生まれたのが、Ouroborosプロトコルスイート。
  • Rethinking information technology from a decentralization perspective(分散化の観点から情報科学を再考): KiayiasによるCBER(暗号およびブロックチェーン経済研究フォーラム)のウェビナー。この研究をベースに情報技術を分散化の観点から議論している。
  • Advances in blockchain technology Scotland 2020(2020年スコットランドのブロックチェーン技術の進歩):エディンバラ大学で行われているブロックチェーン技術に関する世界レベルの研究を紹介したウェビナー。
  • The Architecture of Decentralized Finance Platforms in the Post COVID-19 Era - A New Open Finance Paradigm.(COVID-19後の分散型金融プラットフォームのアーキテクチャ - オープンファイナンスの新パラダイム): オックスフォード大学法学部は、Emilios Avgouleas教授とAggelos Kiayias教授によるCOVID-19後の世界における分散型金融の新パラダイムを成す最近の学際的な研究論文の包括的要約をOxford Business Law Blogに掲載。
  • To (De)centralize or Not: COVID-19 Contact Tracing((脱)中央集権化か否か:COVID-19接触者追跡):Kiayiasが論じる、COVID-19パンデミック中の接触者追跡の特殊性。
  • COVID-19, contact tracing from a security and privacy perspective(COVID-19、セキュリティとプライバシーの観点から見た接触者追跡):接触者追跡は、遅かれ早かれロックダウン措置を解除するのに役立つ可能性がある。包括的な治療法とワクチン接種の解決策がない場合、病気を抑制し続けることが不可欠であり、接触者の追跡は、それを行うための効果的なメカニズムである。

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*2024年5月10日更新