Cardanoの開発は、5つの重なり合う開発テーマが関わる旅として捉えられます。そしてその各テーマはコンセンサスプロトコル、Ouroboros(ウロボロス)に支えられています。Cardanoの進化に伴い、プロトコルも変化し、新たな機能性や実用性がプラットフォームにもたらされます。アップグレードによりネットワークプロトコルには段階的な変更が必要となりますが、本稿ではこうしたプロトコルの変更がどのように実装されるか、そしてこのプロセスをスムーズかつ簡単に行うために舞台裏で何が行われているかを説明します。
プロトコルの変更における複雑性を軽減
暗号界では、ブロックチェーンプロトコルに対するどのような基本的変更もハードフォークと見なされます。ほとんどのブロックチェーンでは、ハードフォークは「トラウマ」的イベントで、ブロック生成に中断(できれば短期のもの)を生じさせます。対照的にCardanoは、ブロック生成を止めることなく、ハードフォークを自動的に処理します。これで、他には見られないスムーズなアップグレードプロセスが提供され、新機能が簡単に導入でき、プラットフォームの性能を進化させることができます。
従来ハードフォークが生じると、現行のプロトコルは稼働を停止します。すべてのブロック生成者は、ブロック生成の新ルールやその他の変更を実装した新バージョンのソフトウェアにアップグレードします。これを行うことにより、チェーンの履歴は消去され、ブロック生成は再び開始されます。これは、ハードフォークされたチェーンが前バージョンとは異なることを意味し、ブロックチェーンのインテグリティに懸念を与え、さらにはチェーンの分裂を導くことも考えられます。
Cardanoの特異性
Cardanoがプロトコルの変更を実行する方法は、他のブロックチェーンがハードフォークを処理する方法とまったく異なります。私たちは常に、こうした変更をできるだけシームレスに行うことを目指しています。スムーズな移行を可能にするために、Cardanoは自動的に前ブロックの履歴を保存します。これにより、プロトコルはチェーンに極端な干渉を与えずにアップグレードすることができます。以前のステータスは消滅することなく、むしろ、新しい性能を含んで拡張されます。2つの独立したチェーンに分裂させる代わりに、Cardanoは、現行のブロック生成ルールに準拠した元のブロックを新ブロック生成ルールに準拠した新ブロックと結合します。
これを行うメカニズムはハードフォークコンビネーターと名付けられました。中断を引き起こしたり、Cardanoの再起動を強制することなく、プロトコルを結びつける(コンバイン)ためです。Byron(バイロン)からShelley(シェリー)への移行で、この技術は始めて使用されました。ここで重要な点は、Byronチェーンの履歴が消滅していないことです。ByronとShelleyのチェーンは「1つ」として現れ、ShelleyのブロックはByron期に生成されたチェーンを拡張しています。ByronのByzantine Fault Tolerance(ビザンチンフォールトトレランス)コンセンサスプロトコル(OBFT)からShelleyのOuroboros Praos(ウロボロスプラオス)へのシフトは、ブロック生成の停止や全ノードの同時更新を必要とせず、ノードは個別に更新することができました。
CardanoとOuroborosの進化に伴い、ハードフォークコンビネーターのアプローチは、Goguen(ゴーグエン)、Basho(バショウ)、Voltaire(ボルテール)のブロックがすべて単一のチェーンに含まれることを保証します。機能は各ステージで一連のハードフォークにより追加されます。一部の新機能はハードフォークすら必要ではありません(コンセンサスプロトコルに変更なし)。
トークンロックの到来
トークンロックは次回のプロトコル更新で搭載される機能であり、現在メインネットへの配信準備中です。社内では、この開発期はAllegra(アレグラ、バイロン卿の娘にちなんで命名)と呼ばれています。ネットワークへのメタデータの統合とともに、これはGoguenにとって次の重要なアップグレードです。
これは比較的小規模なコンセンサスプロトコルの技術的変更で、実際の台帳に与える影響はわずかです。しかし、Cardanoで実行するスマートコントラクトと資産(ADAに加えて)の作成に向けてプラットフォームを準備するために重要な変更となります。また、投票メカニズムをサポートするVoltaire(ガバナンス)の重要な機能も一部提供します。これを支えるのは、今後のハードフォークを通じた開発の継続を確実に可能とするシステム変更です。
トークンロックは特定のトークンが何らかの目的のために使用されていることを記録する方法です。ここでいうトークンとは、ブロックチェーン台帳によってカウントされるアイテムを意味します。これまでのところADAしかありませんが、まもなく他の多くのカスタムトークンがCardanoプラットフォームで使用可能になります。この場合のロックとは、特定数のトークンを指定期間「保留」することを意味します。これで、トークンを処分して利益を得ることはできなくなります(投票やスマートコントラクトの実行など)。
これは、株式からの配当と比較することができます。企業の株を購入した場合、その企業の収益から配当を受けられます。この配当が毎暦年末に支払われ、株主は年間を通じて株式を保有している必要があると仮定しましょう。仮に11月末に株式を一部売却すると、その年の配当分をすべて失うことになります。株主は、特定のトークン(ここでは株式)を一定期間(この場合は1暦年間)保有する見返りとして、価値のあるもの(ここでは配当)を受け取るという条件付き契約を株式提供者と締結しています。
複雑なスマートコントラクトを可能に
トークンロックは複雑なスマートコントラクトを可能にし、特定の条件、例えば購入をする場合などをサポートします。したがって、誰かが家を売却する契約に同意した場合、売主により、この家を他者に売らないこと、実際に代金を支払った人物にのみ売却することが約束されます。つまり、トークンはこの場合の家であり、「約束」は実際にトークンをロックすることです。第三者に家が売却された場合、契約は不履行となり、ペナルティが課されることになります。ADAをトークンとして使用するトークンロックの導入により、まさにこの機能をコントラクトプロバイダーが使用できるようになります。ADAは通常通りステークプールへの委任に使用することも考えられます。
Project Catalyst(プロジェクトカタリスト)のFund2投票で初めて使用されるVoltaireのメカニズムでは、投票プロセスへの参加を希望するADA保有者は一部のADAを「ロック」する必要があります。これは、ロックするADAの額に応じた投票権を表します。個人が一定の票数を持っていることを証明し、票が複数回カウントされる可能性を排除します。個人が保有する票数を超えて投票したり、矛盾するアイデアに投票したり、重複して投票することはできません。
実装方法
トークンロックの導入は舞台裏で行われます。DaedalusウォレットもYoroiウォレットもADA保有者による行動を要求することなく自動更新されるため、ADA保有者には何らの影響もありません。
しかし、トークンロックをサポートするOuroboros更新バージョンを実装するためには、ネットワークを実行しているすべてのノードによる「同意」が必要です(コンセンサスに達する)。これを達成するために、ノードを実行するステークプールオペレーターと取引所は単に新バージョンのコードをダウンロードして操作を確認する必要があります。IOHKの開発チームは、このプロセスを通じて移行がスムーズに行くよう、ステークプールオペレーターをサポートしてネットワークを監視します。
Cardanoメインネット台帳でトークンロックが稼働したら、これに続くハードフォークによりマルチ資産と他のスマートコントラクト機能が導入されます。これらもトークンロックを使用することができ、多くの新たな可能性がCardanoユーザーに開かれます。やがて、これは、Cardanoブロックチェーン上に代替不可能な(固有の)トークンを作成するための基礎を築くことにもなります。
IOHKの革新的なハードフォークコンビネーターは、Cardanoのプロトコルに安全でスムーズな定期更新への道を拓きました。各更新が、混乱とリスクを最小限に抑えながら、新たな価値と実用性をネットワークにもたらします。現在品質テストの最終段階にあり、今月テストネットへの配信プロセスを始め、12月中程にメインネットへ移行できることが期待されています。2021年、Cardanoプラットフォームがその可能性を引き続き発揮して行くにつれ、コンビネーターを使用した更新がさらに行われます。マルチ資産サポートも予定されています。エキサイティングな一年をどうぞお楽しみに。
最新の記事
Input | Output chief scientist receives prestigious Lovelace computing award 筆者: Fergie Miller
3 December 2024
Delivering change in Ethiopia: lessons and reflections 筆者: Staff Writer
28 November 2024
Applying formal methods at Input | Output: real-world examples 筆者: James Chapman
26 November 2024