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Input | Output Researchがコミュニティに年度中間研究報告へのフィードバックを呼びかけ

新しい基礎研究報告書および技術検証報告書のドラフト版は、Work Program '25下のCardanoスケーリング、セキュリティ、ブロックチェーンイノベーションにおける画期的進歩を詳述している。Cardanoコミュニティには、このドラフト版のレビューをCardanoフォーラムで共有して欲しい

2025年 8月 29日 Ivan Irakoze 20 分で読めます

Input | Output Researchがコミュニティに年度中間研究報告へのフィードバックを呼びかけ

Cardano Visionは、Cardanoのブロックチェーン分野における長期的なリーダーシップを確固たるものにするために設計された、5年間の研究イニシアティブであるWork Program 2025(WP25)と共に2025年に立ち上げられた。

本日、Input Output Research (IOR) は、WP25の基礎研究技術検証に関する中間報告書のドラフト版を公開した。これは、Cardanoが主要なブロックチェーンへと進化する上で重要な進歩を示すものだ。現在、IORは最終版公開までの3週間にわたり、Cardanoフォーラムを通じてコミュニティからのフィードバックを募っている。

これらの報告書は、IORの第一原理アプローチが、いかにイノベーションを加速させつつ、Cardanoの開発哲学を特徴づける科学的な厳密さを維持しているかを示している。

基礎研究:明日の基盤を築く

この基礎研究報告書のドラフト版は、WP25におけるIORの34の研究分野のうち、20分野にわたる進捗状況を概説している。具体的には、9つのテーマ別研究分野を通じて、スケーラビリティ、相互運用性、ガバナンス、プライバシー、ID、セキュリティといった課題を扱っている。

World’s operating system

World’s operating system(WOS)は、スマートコントラクト開発を推進し、バリデーターノードの地理的分散にインセンティブを与える研究を含め、位置情報サービスとの統合を探求している。

WOS-4 分散型ストレージは、分散型ハッシュテーブル(DHT)およびデータ可用性サンプリング(DAS)のためのビザンチン耐性を持つプリミティブで大きな進歩を遂げた。また、革新的なプルーフオブスペースとプルーフオブステークによるシビル攻撃対策を模索しつつ、DASとロバスト分散配列(RDA)の統合の可能性についても調査している。

WOS-6 位置情報サービスとスマートコントラクトは、地理的な位置情報をブロックチェーンプロトコルやスマートコントラクトの実行に統合する方法を探求する画期的なメカニズムを導入する。この研究は、論文「Incentivizing Geographic Diversity for Decentralized Systems(分散型システムにおける地理的多様性へのインセンティブ付与)」(投稿済み)に詳述されている。チームは実験的な検証を完了し、引き続き検証済みの位置情報を暗号プロトコルに統合する作業を進めている。

Ouroboros Omega

Ouroboros Omega(OO)は複数の画期的なイニシアチブを包含している。

OO-1V Ouroboros Perasでは、これから発表される投稿済み論文「Adaptively Secure Fast Settlement with Dynamic Participation and Self-Healing(動的な参加と自己修復機能を備えた適応的セキュリティを持つ高速決済)」によってPerasを前進させる。この論文は、安全性、活性、自己修復の特性を証明するものであり、高速決済のための統合の実現可能性を裏付ける包括的なエンジニアリングレポートによって支えられている。

OO-2 Ouroboros Leiosは、論文「High-Throughput Permissionless Blockchain Consensus under Realistic Network Assumptions(現実的なネットワーク仮定における高スループットなパーミッションレスブロックチェーンコンセンサス)」(Crypto '25)によって、Leios の重要なマイルストーンを達成した。本論文は、スループットのスケーラビリティの基盤を確立するものであり、その後の研究では、垂直的なスケーラビリティのための重要な並行性と競合解決メカニズムに取り組んでいる。

OO-3 公正なトランザクション処理は、公正なトランザクション処理メカニズムのための適応的セキュリティに焦点を当てた研究で、論文「Universally Composable Transaction Order Fairness(ユニバーサル合成可能なトランザクション順序の公正性)」(Asiacrypt '25で採択)に貢献している。

OO-5 マルチリソースコンセンサス - Minotaurは、Minotaurのコンセンサスフレームワークを拡張するイーサリアムやビットコインのリステーキング機能を含む、マルチリソースコンセンサスにおけるイノベーションを探求している。

OO-6 プルーフオブユースフルワークOfelimosを拡張し、持続可能なコンセンサスアプローチのために、新しいコンセンサス設計手法と、プルーフオブディープラーニングに関する初期の結果を提供する。

OO-7 輻輳制御は、輻輳手数料、スペーストークン化、および予測可能なトランザクション手数料構造のための高度な価格設定モデルに関する、包括的な論文を生み出している。

トークノミコン(Tokenomicon)

トークノミコン(O)研究は、持続可能なトークノミクス設計に焦点を当てており、長期的なエコシステムの健全性をサポートするための報酬共有モデルとトランザクション手数料メカニズムを改善する。

TO-1 トークノミクス設計は、これまでの研究を拡張し、包括的な準備金ポリシーと耐性フレームワークを通じて、Cardanoのための経済モデルを進展させている。本研究では、11,000人の参加者を対象とした大規模調査から得られた知見を含み、アルゴリズム的通貨ポリシーのための新たな枠組みを導入する。

TO-2 報酬の分配とトランザクション手数料は、シャープレイ値に基づいたスキームを通じて、革新的なプーリングメカニズムを提示する。これは、論文「Pool Formation in Oceanic Games(オーシャニックゲームにおけるプール形成)」(AFT '25で採択)で詳述される。これらのメカニズムは、プーリングにおけるトレードオフを探求し、 Mithrilのためのターゲットを絞ったインセンティブを設計する。

Democracy 4.0

Democracy 4.0(D4)はガバナンスに重要なイノベーションをもたらす。

D4-1 次世代ガバナンスプロトコルは、レイヤー2ガバナンスに特化したUCセキュリティフレームワークを完成させ、最小フットプリントのプロトコルを設計した。これは、論文「Beyond Blockchain Ballots(ブロックチェーン投票のその先へ)」(投稿済み)で取り上げられている。

D4-2 ガバナンスインセンティブは、論文「Reward Schemes and Committee Sizes in PoS Governance(PoSガバナンスにおける報酬スキームと委員会規模)」(FC '25)に貢献している。この論文は、DRepのインセンティブに関する包括的なモデリングを提供し、Catalystのための参加型予算編成の応用を探求している。

Internet Hydra-ted

Internet Hydra-ted(IHT)スケーリングソリューションは、複数の分野で目覚ましい進歩を遂げている。

IHT-1 Hydra tailはロールアップスタイルの完全なプロトコル設計を開発した。セキュリティ証明は2025年に完了予定だ。

IHT-2 Inter-headは、マルチパーティステートチャネルのための初のUCフレームワークを提供している。このフレームワークは、論文「Universally Composable Treatment of Multi-Party Isomorphic State Channels(マルチパーティ同形ステートチャネルのユニバーサル合成可能な扱い)」(投稿済み)で詳述されている。なお、チャネルの構成能力を拡張する作業は現在進行中だ。

IHT-3 最適化ツールは、資金のリバランスやルーティングアルゴリズムを含む重要なメカニズムをマッピングし、2026年を目標としたHydraの機能強化のための包括的なロードマップを作成した。

インターチェーン(Interchains)

インターチェーン(IC)の安全な相互運用性プロトコルは、4つの主要なイニシアティブを通じて進展している。

IC-1 ステート証明とブロックチェーンブリッジは、論文「Bridge Games(ブリッジゲーム)」(投稿済み)を生み出した。これは、最初の形式的なブリッジセキュリティフレームワークを確立するもので、効率的なマークル木の開示に関するゼロ知識証明の進歩(ICCCN '25)と、進行中のTEEブリッジの開発によって補完されている。

IC-3 ライトクライアントインフラは、UTXOチェーンに特化して最適化された超効率的なライトクライアント、Cavefishを発表した(投稿済み)。

IC-4.1 DAppトークノミクスは、「AirDrop Games(エアドロップゲーム)」( IJCAI '25)および「Self-Reinforcing Airdrops(自己強化型エアドロップ)」(投稿済み)を通じて、システム立ち上げのためのトークノミクスを探求している。この研究は、「Investors vs Gamblers(投資家対ギャンブラー)」(CRETE '25)の行動に関する知見によって補完されている。

IC-4.2 コンセンサスイノベーション は、Jolteonの形式検証を進めている。安全性の検証は完了し、活性の証明は進行中だ。また、プルーフオブステークのインセンティブに関する包括的なゲーム理論モデルも開発している。さらに、グラインド攻撃対策についても徹底的に調査され、その成果として論文「Taming Iterative Grinding Attacks on Blockchain Beacons(ブロックチェーンビーコンに対する反復的なグラインド攻撃の抑制)」が生まれた(Asiacrypt ‘25で採択)。これらの進歩は全体として、Cardano のコンセンサス研究における理論的および実践的な基盤を強化する。

ゼロ知識(ZK)のコア機能(Core zero-knowledge capabilities)

ZK-1 ゼロ知識のコア機能は、TEE を形式化する 「AGATE」(CSF '25)や、効率性を損なうことなく Groth16 の UCセキュリティを証明する「UC-Secure Zero-Overhead SNARKs(UCセキュアなゼロオーバーヘッドSNARK)」(TCC '24)を通じて、基礎的なUCフレームワークを進展させている。応用研究では、BLS署名やマークル証明といった簡潔なアグリゲーション技術によってMithrilを改善した。一方、ポスト量子ZKの取り組みでは、格子ベースのSNARKとフォールディングスキームに関する包括的な調査報告書を作成し、将来の研究の方向性を導くものとなっている。

技術検証:研究から現実へ

技術検証報告書は、理論的な研究と現実世界での展開とのギャップを埋める、6つの最先端のプロトタイプについて詳述している。各プロジェクトは、IORのイノベーションチームによる6〜12か月にわたる集中的な作業の成果であり、エコシステムでの普及に備えた参照仕様、機能的なプロトタイプ、Cardano改善提案(CIP)を生み出す。

これらは、仮説を検証し、技術要件を定義し、Cardanoエコシステム全体でのデプロイに向けて技術を準備するために設計された、実用的なソリューションだ。

TV-1:Leios

Leiosは、Cardanoのトランザクションスループットを最大5倍にまでスケールアップさせつつ、プラットフォームの定評あるセキュリティを維持するプロトコルを提供し、旗艦的な成果として浮上している。チームは包括的なシミュレーター、実動するプロトタイプ、詳細なコストモデルを開発しており、Input | Output Engineering (IOE)チームへの引き渡しは2025年第3四半期に予定されている。また、CIPのドラフト版も公開された。

この進歩は、分散性やセキュリティを損なうことなく、世界規模での応用に対応するCardanoの能力の根本的な飛躍を示している。

TV-2:グラインド攻撃対策(Anti-grinding)

グラインド攻撃対策は、Ouroboros Phalanx拡張機能を導入し、グラインド攻撃の計算コストを増加させる。この機能強化により、決済時間の短縮とネットワークセキュリティの強化が実現する。CIP Phalanxの提案は現在、コミュニティレビューを受けており、透明性のある共同開発へのIORのコミットメントを示している。

TV-3:Jolteonの活性/高速BFT(Jolteon liveness/fast BFT)

Jolteonの活性/高速BFTは、Jolteonコンセンサスアルゴリズムの活性特性の形式検証を通じて、パートナーチェーン向けのコンセンサスアルゴリズムを進展させる。チームは、活性証明の形式化においてかなりの進歩を遂げ、技術成熟度レベル4(TRL4)のプロトタイプを達成した。

TV-4:RSnarks

RSnarksは、再帰的なSNARK技術に焦点を当てており、プライバシーの強化とシームレスな相互運用性の両方を実現する。このプロジェクトの主要な成果には、Cardanoのプリプロ環境で大規模な再帰的Halo2-BLS検証ツールを正常に実行したことが挙げられる。これは、検証を複数のトランザクションに分割することで、その実用的な実装を実証したものだ。

この研究は、Cardanoとパートナーチェーン間のトラストレスなzk-bridgeというIORのビジョンを直接的に支えるものであり、強固なセキュリティ基準を維持しながら、エコシステムの範囲を拡大する。

TV-5:プルーフオブリステイク/Minotaur(Proof of restake/Minotaur)

プルーフオブリステイク/Minotaurは、実用的なRustライブラリー、包括的な仕様、委員会選定プロセスの詳細なシミュレーションによって、科学成熟度レベル4(SRL4)に達した。プロジェクトは、Jolteonのシミュレーション環境への統合に成功し、ADAとETHをリステーキングすることで新しいブロックチェーンをセキュアにする実現可能性を検証した。このブレークスルーは、既存のステークセキュリティを活用しながら、新たなプルーフオブステークネットワークを立ち上げるための実践的な道筋を提供する。

プロトタイプ作成作業により、特にMithrilを通じたCardanoのブロックヘッダーの認証など、重要なプロトコル強化の機会が特定された。この進歩は、ライトクライアント、ブリッジ、レイヤー2アプリケーション向けのコンパクトで時間制限のある証明を可能にし、Cardanoを他の主要なブロックチェーンエコシステムと機能的に同等な状態へと近づける。

TV-6ライトクライアント/Cavefish(Light clients/Cavefish)

ライトクライアント/Cavefishはその初期段階にあり、フルノードを実行することなくCardanoとやり取りするための、安全でリソース効率の良い方法を開発している。これは、モバイルユーザーとDApp開発者の双方に利益をもたらす。現在の作業には、初期計画の策定、IOGの研究のレビュー、スキルギャップへの対応が含まれる。

TV-7:委員会証明(Committee proofs:提案中)

提案中の研究分野委員会証明は、SNARKを使用して委員会のローテーションを効率的に検証することで、CardanoとMidnightのようなパートナーチェーン間の安全なクロスチェーンブリッジを可能にする方法を探求している。

コミュニケーションと情報発信

IORのエビデンスベースの方法論は、ソフトウェア成熟度レベル(SRL)フレームワークに準拠しており、初期の探索段階(SRL 1~2)から技術検証(SRL 3~5)を経て、ターゲットを絞った実装(SRL 5+)へと研究を導く。この構造化されたアプローチにより、すべてのイノベーションが科学的に健全で、商業的に適切であることが保証される。

IORは、イノベーションの中心に透明性を据え、スムーズな移行を確実にし、普及を加速させ、知識の損失を最小限に抑える。

IORは複数のチャネルを情報発信に使用している。

これにより、エビデンスベースのイノベーション文化が構築され、IOのオープン性と研究成果に対する評判が強化される。

ベストプラクティスは研究分野によって異なる。Leiosはオープンリポジトリ、月1回のライブアップデート、週次進捗レポート、技術解説を特徴としている。一方RSnarksは、プロトタイプ作成後に解説記事を伴いオープンソース化された。IORは、ライフサイクルの重要な段階でコミュニティを巻き込みながら、可視性と品質のバランスを常に保っている。

共に未来を築く

基礎研究 および技術検証のドラフト報告書が、コミュニティのレビューと議論のためにCardanoフォーラムで公開された(両報告書のエグゼクティブサマリーの日本語版が近日公開予定)。フィードバック期間は3週間で、その後、コミュニティの意見を取り入れた最終版が公開される予定だ。

この協調的なアプローチによって、IORの伝統であり、Cardanoが科学的基盤の上に構築され、集合的なイノベーションによって推進されるブロックチェーンとしての地位を確立することとなった、透明性とコミュニティ主導の開発は継続されていく。