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Cardanoのためのゼロ知識証明が実現:Halo2-Plutus検証ツール

プライベート、スケーラブル、相互運用可能なアプリケーションのためにCardanoにゼロ知識証明をもたらすオープンソースプロトタイプの詳細

2025年 8月 26日 Kris Bennett 11 分で読めます

Cardanoのためのゼロ知識証明が実現:Halo2-Plutus検証ツール

急速に進化するブロックチェーン技術界において、ゼロ知識証明(ZKP)はプライバシー、スケーラビリティ、セキュリティを強化するための礎石となる。Halo2-Plutus検証ツールは、Input | Output Research (IOR)が、Intersect合意の一部として技術運営委員会の優先事項に沿って主導するオープンソースプロジェクトだ。このツールは、高度な暗号化機能をもつHalo2証明システムと、CardanoのPlutusスマートコントラクトプラットフォーム(およびその高レベル言語Plinth)を橋渡しする。

本稿では、本検証ツールの持つ目的、機能性、 さらに、Cardanoの分散型アプリケーション(DApp)、特にMidnight-Cardano zk-bridgeに革命をもたらす可能性について探る。

Halo2-Plutus検証ツールとは

Halo2-Plutus検証ツールは、Halo2を使用してZKPを生成および検証し、CardanoのPlinthスマートコントラクトに統合するために設計されたオープンソースリポジトリだ。 

応用暗号技術者から多大な貢献を受けながら、研究チームとイノベーションチームの共同作業を通じて開発されたこのツールは、プライバシー保護DAppをサポートするため、オンチェーンでHalo2検証を可能にすることに焦点を当てている。その主な目標はMidnight-Cardano zk-bridgeをサポートすることだが、メンバーシップ証明、範囲証明、機密取引など、より幅広いアプリケーションも可能にする。

主要機能

  • Plinth検証ツールの自動生成:Halo2回路記述からPlinth検証ツールコードを生成する検証ツール
  • アドホックしきい値マルチシグ(ATMS)用Halo2回路ATMSのためのHalo2回路の実装と、CardanoのPlutusスマートコントラクトでのその検証
  • マルチスカラー乗算(MSM)CIPへの貢献:暗号プロトコルのパフォーマンスを最適化するために提案された、MSMに関するCardano改善提案(CIP) 

多様なプロトタイプエンジニア、応用暗号技術者、アーキテクト、形式手法の専門家からなるチームが主導するこのリポジトリは、開発者がプライバシーに焦点を当てたDAppの可能性を構想するのに役立つプロトタイプとして機能する。

起源とコラボレーション

このプロジェクトは、Cardanoの相互運用性とプライバシー機能の向上を目指す、IOR、Intersect、技術運営委員会(Technical Steering Committee)間の共同作業だ。これらの成果は、IOR 2025提案のRSNARKワークストリーム下で達成された。 

研究とイノベーションのコラボレーションは極めて重要であり、証明システムの複雑さに対処する上で応用暗号技術者が重要な役割を果たした。その専門知識は、元々 BN256のために開発された最適ペアリングチェックアルゴリズムをBLS12-381楕円曲線に適合させるのに役立ったが、これはCardanoでの効率的な再帰証明検証を可能にする重要な成果だ。チームは、特にzk-bridgeに関する実際のニーズに適合させるため、MidnightやPlutusチームと密接に協力した。

主要な貢献

  • Halo2証明の生成

    • この検証ツールは、デジタル署名や再帰的検証など、さまざまな演算に使用するHalo2証明を生成するためにRustを利用する。証明はJSONファイルにシリアル化され、対応する検証ツールコードはPlinthと互換性のあるHaskellファイルとして出力される。これにより、オフチェーンで計算し、オンチェーンで検証することが可能となる。
  • ATMS Halo2証明

    • sidechains-zkリポジトリ 
    • このツールは、Midnight-Cardano zk-bridgeを含む多くのアプリケーションで重要なコンポーネントであるATMSの検証のプロトタイプを作成する
  • 形式検証

    • 研究論文Efficient Foreign-Field Arithmetic in PLONK(PLONKにおける効率的な外部フィールド演算) 
    • チームはEasyCryptを使用して、外部フィールド演算(FFA)アルゴリズムの健全性と完全性を証明した。SNARK回路において非ネイティブ演算を必要とする再帰的証明の効率を向上させるこの研究は、GitHubで公開されている。
  • MSM CIPへの貢献

    • CIP-133 – BLS12-381上のマルチスカラー乗算に対するPlutusサポート
    • チームは、暗号署名、ZKP、およびHalo2のような楕円曲線ベースのSNARKシステムを含む、さまざまな暗号プロトコルに不可欠な計算集約型演算であるBLS12-381上でのMSMに関するCIPを提案した。MSMは、大規模なMSMが計算コストを支配するSNARKにおいて、証明と検証の両アルゴリズムにおけるボトルネックとなっている。Plutusに組み込みMSMを導入することで、このCIPはCardanoにおけるHalo2ベースプロトコルのパフォーマンスを大幅に最適化し、検証者と証明者の両方に利益をもたらすことを目指している。このCIPは承認され、Plutusチームによって実装中だ。
  • 再現可能な開発環境

    • plutus-halo2-verifier-genリポジトリ
    • 依存関係管理にNixを、PlinthコントラクトのビルドやテストにCabalを使用することで、この検証ツールは、効率的で再現可能なワークフローを保証する。 

技術的成果と課題

  • Plinth検証ツールの生成

    • このツールは、RustのHalo2ライブラリーが提供する回路記述から、PlinthのHalo2検証ツールを自動生成する。このツールはHandlebarsライブラリーを利用して、Plinth Halo2テンプレートに回路固有のロジックを追加する。
  • このツールは、ATMSの検証など各種回路に適用されてきた。これは、Halo2ルックアップテーブルとカスタムゲートをサポートしている。結果には、ATMS署名がCardanoメインネットで効率的に検証でき、検証ツールが単一のPlutusスクリプトの計算限界内に収まることが示されている。

  • FFAの形式検証

    • チームはEasyCryptを使用してFFAアルゴリズムの形式検証を行い、乗算ゲートと新しいMSMアルゴリズムに対する健全性と完全性を証明した。これにより、Halo2回路における非ネイティブ演算の信頼性が保証される。
  • MSM CIP

    • チームによるBLS12-381上のMSMに関するCIPは、検証ツールのパフォーマンスを最適化する組み込みPlutus関数を提案している。これにより、Halo2ベースのプロトコルの計算コストが大幅に削減される。

このプロトタイプが有用な理由

このHalo2-Plutus検証ツールはプロトタイプではあるが、 Cardanoに次のような変革をもたらす可能性を秘めている。

  • プライバシー保護DApp:機密データを開示せずに計算(トランザクション額など)を検証
  • スケーラビリティ:複雑な計算をオフチェーンで実行しながらオンチェーン検証を維持
  • 相互運用性:再帰的証明を検証することでMidnight-Cardano zk-bridgeを有効にする
  • 汎用性

    • DeFi:秘匿取引や担保検証
    • 投票:DAOにおけるプライバシーを保護した適格性証明
    • コンプライアンス:プライバシーを保護しながら規制に準拠
  • コミュニティへの影響:オープンソースツールとMSM CIPにより、開発者は高度な暗号化ソリューションを構築することが可能になる

コミュニティの声は、このプロトタイプの価値をより深く理解するのに役立つ。Anastasia LabsおよびMidgardの創設者Philip DiSarroは次のように述べている。

私はCardanoで実世界のインフラを構築している者として、エコシステム内のZKツール開発の進歩を注視してきました。Halo2-Plutus検証ツールは大きな前進です。Halo2証明のためのオンチェーンPlutus検証ツールを持つことは、プライバシー保護とスケーラブルなアプリケーションの設計空間を劇的に拡げます。私たちは、不正防止圧縮を可能にし、レイヤー2間の相互作用におけるユーザーエクスペリエンスを向上させる方法として、当社のオプティミスティックロールアップフレームワーク、Midgardに検証ツールを統合することを検討してきました。このコードベースは慎重に構造化されており、IOGのR&Dチームが、CardanoのEUTXOモデルとPlutusの制約に設計を合わせることに細心の注意を払っていることは明らかです。このプロジェクトがオープンソース化されていることに興奮しています。これは、エコシステムがどこに向かっているのかを示す強力なシグナルを送り、私たちのようなチームが強固でミッションクリティカルな基盤の上に構築する機会を与えてくれます

ユースケースの可能性

  • Midnight-Cardano zk-bridge:再帰的証明を使用して、CardanoにおけるMidnightステータスを検証する
  • 秘密投票:IDを公開せずに有権者資格を証明する
  • 機密DeFi:金額を非公開にしながらトランザクションを検証する
  • サプライチェーン:さらなる開示をすることなく、製品の属性(原産地など)を検証する 

まとめ

IORとIntersectとのコラボレーションから生まれ、技術運営委員会の指導のもとに開発されたHalo2-Plutus検証ツールは、Cardanoのプライバシーと相互運用性を根本から変える。応用暗号学者、プロトタイプエンジニア、形式手法の専門家が貢献するこのツールは、Midnight zk-bridgeのための再帰的証明など、CardanoでのHalo2証明の実現可能性を実証するものだ。検証コストが高いなどの課題はあるものの、MSM CIPやFFA形式検証のようなイノベーションは、効率的で安全なDAppへの道を開く。

興味がある場合は、リポジトリをクローンして、コードを深く掘り下げ、Cardanoのプライバシーの未来にぜひ貢献して欲しい