Cardanoトークノミクス:設計、インセンティブ、ステーブルコイン
2025年7月のCardano R&Dセッションでは、研究者、ビルダー、ガバナンスリーダーが一堂に会し、Cardanoにおけるトークノミクスの未来を探求。バリデーターのインセンティブからステーブルコインの設計まで、経済メカニズムがサステナブルな成長を促進し、分散性を深め、エコシステムの回復力を強化する方法が議論により明らかに
2025年 7月 9日 14 分で読めます
ブロックチェーン研究開発の最前線を探る月例Cardano R&D Sessions第2弾で、Input | Output Research (IOR)はIntersect研究ワーキンググループと共同で、エコシステムで最も緊急かつ複雑なトピックの1つであるトークノミクスに関するダイナミックな議論を主催した。
7月のセッションでは、Cardanoエコシステム全体から一流の研究者と実務家が集まり、Cardanoの経済インフラを形作る基礎設計の問題に取り組んだ。IOR研究フェローのPaolo PennaとDRepのRyan Wiley(Cerkoryn)の発表のほか、IORのリサーチパートナーシップディレクターであるFergie Millerの司会により、Manvir Schneider(Cardano財団)とRaul Antonio(Fluid Tokens)とのライブパネルディスカッションが行われた。
トークノミクスが重要な理由
トークンの作成、配布、使用、保持方法に関する概念であるトークノミクスは、ブロックチェーンネットワークの経済的エンジンを形成する。DeFi、ガバナンス、パートナーチェーンアプリケーションのスイートが拡大しているCardanoにとって、堅牢で適応性の高いトークノミクスモデルの構築は長期的なサステナビリティの鍵となる。Paolo Pennaが提唱したように、トークノミクスは「価格だけでなく、普及、参加、信頼に影響を与える、分散型システムのための通貨政策」である。
IORがコミュニティに提案したCardano Vision研究プログラムのTokenomics Focus Areaでは、トークノミクス研究における次の3つの主要分野が概説されている。
- TO-1:トークノミクス設計 - 財務資金の流れ、準備金、トークンの供給がエコシステムの健全性にどのように影響するかを研究する。
- TO-2:報酬の共有とトランザクション手数料 – バリデーターとガバナンスのためのインセンティブスキームを改良する。
- TO-3:ステーブルコイン - 分散型ステーブルコイン設計用のリスク認識型フレームワークを開発する。
トークノミクスは、その重要性にもかかわらず、比較的研究が進んでいない。これらの研究分野は、サステナブルな成長、分散型参加、現実世界における有用性をサポートする、科学的根拠のある経済アーキテクチャーをCardanoに提供することを目的としている。
Cardanoの通貨システムをモデル化
セッションの冒頭で、Paolo Pennaはプルーフオブステーク(POS)型ブロックチェーンがどのように経済的に機能するかの基礎モデルを提示した。Cardanoシステムでは、ユーザーはADAでトランザクション手数料を支払い、バリデーター、すなわちステークプールオペレーター(SPO)とそのデリゲーターが受け取る報酬もADA建てである。これは需要と供給の間に動的な緊張関係を確立し、プロトコルレベルのパラメーターは行動に影響を与えるが、トークン価格を直接制御することはできない。
Paoloは、バリデーター報酬を増やすことでステーキングの動機付けにつながる(したがって売却圧力を減らす)かもしれないが、そのような変更は慎重に調整しなければならないと強調した。トークノミクスは独立したレバーとして扱うことはできない。選択した設計の影響はシステム全体に波及し、分散性、有用性、長期的サステナビリティに影響を与える。
彼は、トークノミクスモデルが取り込むべき3つの相互依存層を特定した。
- バリデーター経済学 - SPOはインセンティブに反応する合理的なアクターである。報酬や出資構造の変化は彼らの行動に影響を与える。
- システム拡張 - パートナーチェーンとガバナンス(Voltaire)を通じたCardanoの進化は、経済的相互作用層を追加し、単一チェーンの観点を超えたモデルを必要とする。
- 価格ダイナミクス - 有用性と感情によって形成されるADAの市場価格は、ステーキング行動とプロトコル参加にフィードバックされる。
これらの側面の1つまたは2つに別々に焦点を当てるモデルがあまりにも多い。Paoloは、フィードバックループをよりよく理解し、異なるポリシーシナリオの下で結果を予測するために、ゲーム理論、シミュレーション、実証データを組み合わせた統合フレームワークを求めた。要するに、回復性の高いトークノミクスを設計するということは、時間の経過とともにインセンティブ、普及、ガバナンスが共進化する生きた経済としてCardanoを扱うことを意味する。
CIP-50の再訪:分散化のための出資メカニズム
エコシステムのステークホルダーかつDRepのRyan Wileyは、Cardanoの出資システムを改善し、ネットワークの分散化を強化するための提案CIP-50: Rebirthを発表した。現在、多くのステークプールはほとんど、あるいはまったく出資なしで運営されており、経済的な露出を減らし、市民の抵抗を弱めている。これでは、オペレーターのインセンティブを調整し、シビル攻撃を阻止するという、出資システムが意図した機能が損なわれる。
CIP-50は報酬式に「低出資ペナルティゾーン」を導入している。委任されたステークが出資ADA額を大幅に超えている、すなわち定義されたレバレッジのしきい値(l)を超えているプールは、超過分に対する報酬が減少されるかゼロになる。これは、より広いネットワークにペナルティを課すことなく、出資へのコミットメントを強化させる。
シミュレーションでは、この提案がNakamoto係数とネットワーク総出資額を有意義に増加させ、分散性を強化できることが示されている。Ryanは、適切なl値を選択することが重要であることを強調した。これは、値が低すぎると小規模プールが損なわれるし、高すぎると影響力が低下する可能性があるためだ。彼は、コミュニティがネットワークのニーズに応じて時間の経過とともに動的にしきい値を調整できるように、ガバナンス制御型パラメーターを提唱した。
パネルの視点:健全なトークンエコノミーの設計
円卓会議の議論はManvir Schneiderの省察から始まった。彼は、健全なトークンエコノミーを、すべての参加者のインセンティブを一致させ、分散型参加を維持させ、オンチェーンユーティリティの成長をサポートするものと定義した。
Fluid TokensのCTOであるRaul Antonioは、透明性が鍵であると強調した。SPO、ユーザー、DRepなどすべての参加者は、明確で共有されたルールに基づいて戦略を立てることができるべきである。それがなければ、彼らは互いを出し抜こうとし合うことになる。
Manvirはまた、ステーク加重式投票への過度な依存に警鐘を鳴らし、大規模なステークホルダーによる過剰な影響を防ぐために、Banzhaf指数のような代替案を提案した。彼の洞察は、トークノミクスがガバナンス設計から切り離すことはできないことを改めて認識させるものだった。
普及触媒としてのステーブルコイン
議論は次に、DeFiにとって不可欠なインフラであり、より広範な普及のための重要なエントリポイントとしてのステーブルコインに移った。Raul Antonioは、イーサリアムのようなチェーンでは、ユーザーは「慣れ親しんでおりボラティリティが低いため、ネイティブトークンではなくステーブルコインを介して最初にエンゲージすることが多い」と指摘した。Cardanoが競争力を維持し、機関投資家を引き付けるためには、安全でアクセス可能で広く普及しているステーブルコインを提供する必要がある。
Paolo Pennaは、堅牢なステーブルコインの設計は複雑であると強調した。効果的なアプローチは通常、アルゴリズム的メカニズムと準備金または担保の裏付けを組み合わせ、資本効率、分散性、価格安定性の間で慎重なバランスをとる。設計上の判断ミスは、信頼の浸食やシステム上のリスクを引き起こす可能性がある。
Manvir Schneiderは、オンチェーン決済を行う自律型AIエージェントの台頭に伴い、信頼性が高くプログラム可能なステーブルコインの需要は高まる一方だと付け加えた。パネルは、ステーブルコインが単なるDeFiツールではなく、Cardanoの長期的な有用性と世界経済統合の礎石であることに同意した。
研究、報酬、回復力
議論はCardanoの長期的な経済的サステナビリティに立ち返った。ADAの準備金は時間の経過とともに枯渇し続けるため、プロトコルをバリデーターの報酬がトランザクション手数料のみで支えられる状態へと徐々に移行させていく必要がある。この変化は強力な設計圧力をもたらし、k(プール数)やa(出資の影響)のような個々のパラメーターだけでなく、ブロックサイズ、計画的報酬削減、手数料市場といったより広範なシステムレベルのメカニズムの最適化も必要となってくる。
Paolo Pennaは、ゲーム理論のフレームワークと高度なシミュレーションツールを用いて、これらの圧力をモデル化するIORで現在進行中の作業を概説した。これらのモデルは、ステークホルダーがパラメーターの変化にどのように反応するかを予測するのに役立ち、研究者はシステムが均衡に達するまでにかかる時間を推定し、意図しない結果を特定することができる。
このデータ駆動型アプローチは、経済的に健全で社会的に許容できる将来のアップグレードを設計するために不可欠であり、Cardanoが自律的な経済に成熟しても分散性、公平性、回復力のコア原則を維持できるようにする。
成長、DApp、相互運用性
Fergie Millerは重要な戦略的課題を提起した。すなわち、競争が激化するエコシステムにおいて、DApp開発者を引き付け、維持するために、Cardanoのトークノミクスをどのように最適化できるか、という問いである。
Ryan WileyはCardanoのノンカストディアル型ステーキングモデルが明確な利点であると指摘する。他の多くのブロックチェーンとは異なり、ユーザーは資産をロックすることなくADAを委任して報酬を得ることができ、ステーキング利回りを維持しながら流動性とガバナンスへの参加を可能にするDeFiアプリケーションへの扉を開くことができる。Raul Antonioはこれに同意し、ユーザーがADAで流動性を提供しながら、ステーキング報酬を獲得し、ガバナンスプロセスで票を投じることを可能にするテストネットDAppの例を示した。
Paoloは、この文脈におけるCardanoの新たなパートナーチェーンフレームワークの価値を強調した。並列するエコシステムが独自のネイティブトークン、報酬スキーム、および手数料モデルで稼働することを可能にすることで、パートナーチェーンは、Cardanoのステーキングベースに接続しながら、モジュール型の経済アーキテクチャーを構築する。これにより、ADAの有用性を損なうことなくイノベーションが可能になり、より広範なエコシステム全体でチェーン、アプリケーション、ユーザーロール間の相互運用性が実現する。
分散性とフィードバックループ
Paolo Pennaは閉会の辞の中で、Cardanoのビジョンの中心にある強力なフィードバックループを説明した。すなわち、分散性が深まるほどネットワークへの信頼が促進され、その結果、より多くのユーザー、開発者、機関投資家を引き付け、普及、イノベーション、回復性の向上につながる。システム参加者が増加し、その進化に貢献すればするほど、分散性はさらに深まり、サイクルを強化する。
しかし、このポジティブなループは、参加者がシステムの根底にある経済ルールを理解し、信頼している場合にのみ機能する。Paoloは、ユーザーが報酬、手数料、インセンティブの仕組みを理解できなければ、システムの意図に反した行動を取り、非効率性や脆弱性につながることもあり得ると警告する。このような破綻はプロトコルの目標を損なうだけでなく、最適ではない戦略を意図せず採用してしまった個々のユーザーにも害を及ぼす可能性がある。
信頼を維持するために、Cardanoはトークノミクスメカニズムの透明性、説明可能性、適応可能性を保証し、ユーザーが出し抜かれたと感じることなく、力を与えられていると感じるような包摂的なネットワークを支援しなければならない。
今後の展望
7月のR&Dセッションでは、トークノミクスはパラメーターの設定に留まらないという重要な洞察が確認された。それは、分散型社会を支えるインセンティブアーキテクチャーを設計することである。報酬、手数料、財務資金の流れ、ガバナンスの権利の構造は、信頼、参加、価値創造が時間の経過とともにどのように展開するかを定義するものだ。これらの懸案事項は、Cardanoの長期的な回復性、包摂性、経済的妥当性の基礎となっている。
パネリストは、その未来への大胆な抱負を共有した。Raul Antonioは、DeFiやオンチェーン投票とシームレスに統合された、よりアジャイルなガバナンスとDAppを求め、Cardanoを分散型意思決定のモデルと位置付けた。Ryan Wileyは、資本効率が高く手数料が低い取引のためにHydraのさらなる普及を想定しており、ユーザーがより広いエコシステムに参加しながらステーキングできるようにするDAppを構想している。Manvir Schneiderは、トランザクション手数料を使った自律的な報酬モデルへの移行の緊急性を強調した。Paolo Pennaは、Cardanoのトークノミクスが他の経済システムと接続し、進化することを可能にするための重要な実現要因として相互運用性を強調した。
モデレーターのFergie Millerが閉会の声明で述べたように、R&Dセッションのフォーマットはまだ新しいものであり、Voltaire期もまた同様である。しかし、研究と開発の橋渡しを続けることができれば、Cardanoはサステナブルで適応性があり、コミュニティによって統治されているブロックチェーン経済の構築をリードすることができる。
ぜひCardano R&D Sessionsで次回のイベントに登録して欲しい。Cardano R&D Sessionsへの参加希望、またはIORに関するお問い合わせは、お問い合わせフォームから受け付けている。
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