障壁を壊す:Cardanoをもっと開発者フレンドリーに
Project Acropolisは、Cardanoノードを、開発者が外部から接続するだけでなく、内部でアプリケーションを構築できる生きたエコシステムとして再構築
2025年 7月 3日 13 分で読めます
数学的基礎と形式的検証アプローチによって、Cardanoはブロックチェーンのセキュリティと信頼性の第一人者としての地位を確立した。しかし、卓越したセキュリティを保証するこれらのアーキテクチャーの選択は、専門知識、ツール、インフラへの多額の先行投資を必要とする開発者エクスペリエンスを生み出した。その結果、技術的に最高レベルの堅牢性を誇るブロックチェーンは、多くの開発者にとって構築が困難であり、その強力な技術的優位性にもかかわらず、エコシステムの成長が妨げられている。
これを受けて、Input | Output (IO)は現在Project Acropolisに取り組んでいる。これはCardanoノードアーキテクチャーの根本的な再構築である。Acropolisは、ノードを単なる外部からの接続を要する「要塞」として捉えるのではなく、開発者が使い慣れたツールや標準的なインターフェイスを活用し、アプリケーションを内部から構築できるような、モジュール化された拡張性豊かなエコシステムへと進化させる。このアプローチは、Cardanoのセキュリティ保証を維持しながら、参入障壁を劇的に削減する。
アリスの場合:彼女のCardanoオンボーディングチャレンジが誰にとっても重要な理由
この変容が実際に何を意味するのかを理解するために、DeFiの経験を持つRust開発者を表す架空の合成キャラクター、アリスをフォローしてみよう。この架空のシナリオは、開発者がCardano開発に取り組む際に直面する一般的な課題を示している。
Cardanoの数学的に保証されたセキュリティに惹かれ、アリスはイールドファーミングトラッカーを構築したいと考えた。Cardanoの厳格なアプローチの恩恵をもろに受ける一種の金融アプリケーションだ。
この架空のシナリオで、アリスは次のように省察するだろう。「セキュリティモデルは説得力があったけど、学ぶことが多すぎて迅速なプロトタイピングは難しかったわ。成果を出せるようになる前に、Haskellや特殊なプロトコルの学習にかなりの時間が必要になったでしょうね」
アリスの経験はある機会を浮き彫りにしている。Cardanoは比類のないセキュリティ保証を提供しているが、ノードとの統合を望む開発者は、他のブロックチェーンよりも厳しい学習曲線に直面して、やる気が削がれるかもしれない。
注:スマートコントラクトの開発者には現在、HaskellやPlutusを学習する代わりのプログラミング言語としてAikenがあるが、バックエンドシステムをCardanoノードに統合したい開発者に同種のアクセスパスウェイはまだない。Project Acropolisが取り組んでいるのは、まさにこれである。
もしここに、Cardanoの技術的優位性を維持しつつ、使い慣れた開発インターフェイスを提供する方法があったらどうだろうか。
Cardano開発者の進化
分散性、堅牢なガバナンス、数学的に検証されたセキュリティにより、Cardanoは最も信頼されるブロックチェーンに数えられる。これは、セキュリティと正確性を優先するアーキテクチャーを慎重に選択した結果であり、ここから開発者エクスペリエンス向上の機会も創出される。
Cardanoが形式手法を重視していることは、優れたセキュリティ保証を提供する一方で、開発者が生産性を高めるためには専門的な知識が必要であることも意味している。開発者エクスペリエンスの改善に取り組んでいるIOのリードアーキテクト、Paul Clarkは、現在のアーキテクチャーは「城塞的な考え方」を持っていると説明する。これは非常に安全であるが、エントリーポイントが限られている。
今日の開発エクスペリエンスには、いくつかの分野で改善の余地がある。
- インフラ要件:DB Syncを介してCardanoデータにアクセスするには、最大64GBのRAMと高額なクラウドホスティングコストが必要
- インターフェイスの複雑さ:カスタムネットワークプロトコルには、標準のREST APIに比べて専門知識が必要
- 専門知識:コア開発はHaskellを活用するため、まとまった学習時間が必要
- アーキテクチャー上の制約:統合ノード設計では信頼性を優先し、拡張性は制限
これは、開発をより親しみやすいものにしながら、Cardanoの技術的優位性をいかに維持するかという課題を示している。
ゲームを変えるビジョン:ノードがエコシステムになるとき
これこそまさに、IOのPaul ClarkとチームがProject Acropolisで取り組んでいる課題である。Acropolisは、Cardanoノードをモジュラーアーキテクチャーに再設計し、ノードの多様性を高め、統合を容易にし、より分散化された開発を可能にするイニシアチブである。そのソリューションは、Cardanoへのアクセスを容易にするだけではなく、ブロックチェーンノードの可能性を根本的に再構築している。
「私たちが考えているのはノードのエコシステムだ。これは、Cardano DB Sync、Ogmios、Blockfrostなど、ノードを取り巻くすべてのアプリケーションとインターフェイスを含む。言うなれば、今は中央に城塞があり、その周りに建物がある。しかし私のビジョンでは、ノードが十分に多孔質になるので、アプリケーションをノードに直接構築でき、ノードの隣に置くのではなく、ノードの一部にすることができる」
基本的な洞察は、「ノードがエコシステムである」だ。
外部からブロックチェーンとの接続に苦労する代わりに、アプリケーションはノードインフラの一部となる。アプリケーション機能がアーキテクチャーに組み込まれる。例えば、分散型取引所(DEX)プロトコルはデータ処理パイプラインの一部となる。
Clarkのビジョンは、ノードを要塞から、内からイノベーションが起こる生きたエコシステムに変える。
モジュラー型アーキテクチャーがいかにすべてを変えるのか
この変革を可能にする技術的な基盤は、アプリケーションに依存しないフレームワークであるCaryatidに構築された「モジュール式のイベント駆動型アーキテクチャー」だ。Caryatidは、メッセージバス、モジュール読み込み、設定管理を提供することで、このモジュール性を可能にしている。これにより、アプリケーションコードを変更することなく、モジュールを単一のプロセス内で効率的に実行したり、スケーラビリティのために複数のプロセスに分散させたりすることが可能になる。古代の城塞を近代的な都市地区に置き換えるものだと考えてみればいい。高い壁と1つの跳ね橋の代わりに、専門的な建物が立ち並ぶ都市地区だ。それはむしろ、通路や道路で相互に接続されたビル群、すなわち建物のネットワークだ。
城塞からエコシステムへ
現在のCardanoノードはモノリシックであり、1つのパッケージですべてを処理する単一の複雑なシステムである。Acropolisはこれを緩く結合されたモジュールに分割する。このモジュールはメッセージバスを介して通信し、組み合わせたり、マッチさせたり、拡張したりすることができる。
主なイノベーション
- 標準インターフェイス:カスタムミニプロトコルの代わりに使い慣れたRESTまたはgRPC API
- モジュラー型コンポーネント:必要なモジュールのみを実行
- ポリグロット開発:コアフレームワークはRustを使用するが、インターフェイスは任意の言語が可能
- イベント駆動型アーキテクチャー:変更をポーリングするのではなく、関連するイベントをサブスクライブ
- カスタム拡張:独自のモジュールを作成し、ノード内で起こっているすべてのことに直接アクセス
実際のインパクト:すでにエキサイトしているのは誰だ
現実の問題に取り組んでいる現実のプロジェクトは、Acropolisを使用するために列をなしている。
パートナーチェーンは、既存の汎用的で非効率的なインデックス作成ソリューションを使用する代わりに、クロスチェーンロジックを直接Acropolisノードに埋め込むことを計画している。
Blockfrostは現在、Cardanoデータをアクセス可能にするために高額のインフラを運用している。Acropolisを使えば、パフォーマンスを向上させながらコストを劇的に削減できる。
Sundae LabsもAcropolisのモジュール性に関心を示しており、注文をバッチ処理して実行するソフトウェアScooperをアップグレードし、作業中の他のいくつかのプロジェクトの主要コンポーネントとして活用するエキサイティングな計画が複数上がっている。
しかし真の興奮は、まだ存在しないプロジェクト、つまりインフラの障壁がなくなったときに可能になるアプリケーションによってもたらされる。
タイムラインと現在のステータス
2024年10月にCaryatidフレームワークに取り組むPaul Clarkと始めたProject Acropolisは、小さなチームが技術的に実現可能であることを証明する「初期検討フェーズ」にある。プロジェクトには現在Sundae Labs開発者やその他のCardanoエンジニアが含まれているが、チームは意図的に小規模のままである。
- フェーズ1 - データノード(現在):基盤インフラを構築し、DB SyncをRESTアクセス可能なモジュール式コンポーネントに置き換える
- フェーズ2 - ノードの検証(2025年下半期):トランザクション検証とスクリプト実行の追加
- フェーズ3 – フルノード(将来):ブロック生成とマルチピアネットワーク
「そこに行っていろいろ試してみる。スカンクのように実験をして、壊れたものがあったらイテレーションする。探検の初めに川、山、湿地をマッピングして、ジャングルを切り開いて道を見つけるようなものだ。次のフェーズは安定化であり、柔軟な設計で居住可能にし、適応性を維持しながら方法論を確立する。私たちはこの技術がこの特定の方法で機能することを証明しているが、それが唯一のアプローチではない。あなたはそれを完全に別の方法で行うことができるし、モジュール式であるために完全な書き換えということにはならないだろう」
アリスのAcropolis経験を再構築
ここでもう一度アリスによる仮説シナリオを考えてみる。しかし今回は、Acropolisが選択肢にある場合の開発エクスペリエンスとする。
このシナリオでは、アリスは自分のイールドファーミングトラッカーを構築することにしたとき、Acropolisのドキュメントが異なるアプローチを提供していることに気付く。すなわち、流動性プールデータ用のREST APIエンドポイント、リアルタイム更新用の標準サブスクリプションメソッド、複数のプログラミング言語のサンプルなどだ。
アリスは、HTTPリクエストや標準的なWebテクノロジーなど、馴染みのあるパターンで作業している自分に気付く。数時間以内に、基本的なプールデータがRustアプリケーションに流し込まれる。その日のうちに、トランザクションイベントサブスクリプションを使用した通知システムのプロトタイプが出来上がる。
この経験により、孤立した外部アプリケーションを構築するのではなく、より広範なエコシステムの一部となる「イールド分析モジュール」に貢献できる可能性が明らかになる。このモジュール化されたアプローチは、他の開発者がアリスの仕事をベースにして、それを拡張したり、自分のプロジェクトの基盤として使用したりできることを意味する。
アリスが週末に集中した取り組みが、再利用可能なインフラになり、コミュニティ全体の将来の開発を加速させる可能性がある。
全体像:水門を開く
Project Acropolisの真の約束は、Cardanoの開発を容易にするだけでなく、根本的にCardanoエコシステムに参加できる人を拡大することだ。
ブロックチェーンインフラがウェブ開発と同じくらいアクセスしやすくなると、Cardanoでの構築はREST APIの構築と同じくらい自然に感じられ、アプリケーションが外部からの接続に苦労することなくエコシステムの内部に搭載できるようになると、コミュニティは分散型エコシステムの真の可能性を実感することになる。
技術的な障壁はセキュリティを確立するという目的には役立ったが、アリスのような開発者にとって想定外の障害物を生み出し、成長の可能性を制限してきた。Paul Clarkのエコシステムとしてのノードというビジョンは、Cardanoの数学的厳密さとセキュリティを維持しながら、はるかに大規模なビルダーコミュニティへの扉を開くという、両方の世界の最良の道を表している。
Cardanoを探索するための適切なタイミングを待っていた開発者にとって、その瞬間は予想よりも速く近づいているのかもしれない。壁は崩れつつあり、エコシステムはこれからどんどん大きくなるだろう。
Project Acropolisは現在活発に進行中だ。プロジェクトの今後や参加に興味のある開発者は、IOHKのブログから進捗状況を追跡することができる。
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