Input | OutputがEurocrypt‘25でブロックチェーンのための暗号ツールワークショップを共催
Eurocrypt '25、第44回暗号技術の理論と応用に関する国際年次大会(Annual International Conference on the Theory and Applications of Cryptographic Techniques)が2025年5月4日から8日までスペインのマドリードで開催された。IACR国際暗号学会が主催したこの主要な暗号学会には、世界中から650人を超える研究者や専門家が出席した
2025年 7月 1日 7 分で読めます
本学会のための論文選考は熾烈を極め、応募論文624本中受理されたのはわずか123本だった。これらの研究はSpringerのLecture Notes in Computer Science全8巻にまとめられ、セキュアなマルチパーティコンピュテーション、公開鍵暗号、高度な暗号プロトコル、ゼロ知識証明、応用暗号などの重要な分野に及んでいる。
注目すべき点としては、IBMによるSNOVAの暗号解析や、より高次元のアイソジェニーを利用したコンパクトな公開鍵暗号方式の開発などが挙げられる。このイベントは、IMDEA Software Institute、マドリードカルロス3世大学、マドリードコンプルテンセ大学が共催し、Apple、Google、Huawei、IBM、Midnightなどの主要なテクノロジースポンサーから惜しみないサポートを受けた。
CTBワークショップ:ブロックチェーン暗号の進歩
Input | Output (IO)のスペインにおける確立されたプレゼンスを活かし、EurocryptのサテライトイベントとしてCryptographic Tools for Blockchains(CTB’25)ワークショップの共同開催が実現した。本ワークショップは、スイスのチューリッヒで開催された第1回CTB’24に続くCTBシリーズ第2回目となる。
CTBワークショップは著名な研究機関と共同で企画されており、今回は、スペイン国立研究評議会(CSIC)とマラガ大学との共催となった。CTBはどちらの回も、公式な議事録(Proceedings)を出すことなく運営されるよう明確に設計され、発表者は従来の出版形式の制約に縛られることなく、最先端のアイデアを披露し、建設的な対面での議論を行うことができた。
CTB’25は、ブロックチェーン技術の暗号基盤の進展に尽力する、幅広い分野の研究者や実務家が集った。プログラムでは10の講演が行われ、その内訳は8つの査読付き研究発表と2つの招待基調講演だった。これらは暗号プリミティブとプロトコル、コンセンサスメカニズム、時間関連暗号プリミティブの3つのテーマに分けられた。このテーマの構造化は、暗号研究の本質的に学際的な性質を認識しつつ、一貫した議論を促進した。
CTB’25の主な技術的ハイライト
暗号プリミティブとプロトコルトラックでは、次の寄稿が際立った。
- Aoxuan Li、Itsaka Rakotonirina、Refinement-based Verification of Protocols with Quantitative Valuesは、時間制約のある、特にタイムロックを使用するブリッジプロトコルに関連が深い述語をサポートするTamarinをベースに構築された検証ツールを紹介。
- Alireza Kavousi、István András Seres、Homomorphic Signature-based Witness Encryption and Applicationsは、準同型暗号化されたSWEのバリアントを導入し、セキュアな投票やオークションといったSWEに依存するアプリケーションの効率とデプロイを強化する。
- Annalisa Cimatti、他、Dynamic-FROST: Schnorr Threshold Signatures with a Flexible Committeeは、FROSTへの拡張機能を紹介し、署名者としきい値要件の動的な調整を可能にして、分散型ガバナンスとコンセンサスプロトコルに新たな可能性を開く。
- Sanjam Garg、他、Jigsaw: Doubly Private Smart Contractsは、オンチェーンとオフチェーンの両方でプライバシーを保証するスマートコントラクトのための新しいフレームワークを提案し、プライバシー保護コンピュテーションにおける長年の課題に対処する。
コンセンサスメカニズムトラックのハイライトは以下となる。
- Christoph U. Günther、Krzysztof Pietrzak、Putting Sybils on a Diet: Securing Distributed Hash Tables using Proofs of Spaceは、プルーフオブスペースが、従来のプルーフオブワークメカニズムよりも、分散ハッシュテーブルにおけるシビル攻撃をいかに効果的に軽減できるかを示す。
- Mirza Ahad Baig、他、Nakamoto Consensus from Multiple Resourcesは、ワーク、スペース、逐次評価など、複数のリソースタイプを活用するコンセンサスモデルの分類法(タクソノミー)を提案し、それらの最長チェーンプロトコルへの適用可能性を考察する。
時間関連暗号プリミティブトラックの主な寄稿には以下があった。
- Dan Boneh、Aditi Partap、Lior Rotem、Traceable Verifiable Random Functionsは、トレーサビリティを組み込んだ新しいVRFバリアントを導入して、分散型環境でのランダムアウトプット生成に対する説明責任を可能にする。
- Stella Wohnig、他、A Tale of Time Release Powered by Blockchain and IBEは、ブロックチェーン技術とIDベース暗号(IBE)を組み合わせることで、タイムリリース暗号化がいかに実現可能であるかを包括的に考察。ブロックチェーンエコシステムに高度な機能をもたらすことが期待される。
招待基調講演とコミュニティエンゲージメント
CTB’25では、2つの著名なゲストトークも行われた。FileOzのNicola Grecoは、Public Good Crypto: Funding Last-Mile Cryptography Research to Secure the InternetおよびPush Digital Human Rights Forwardと題した魅力的なプレゼンテーションを行い、基礎的な暗号研究を支援する現在の資金調達機会を概説した。ミュンヘン連邦軍大学のDaniel Slamanigは、Anonymous Credentials: Past, Present and Futureで匿名クレデンシャルの歴史的および技術的概要を説明。これには欧州のデジタルIDフレームワークにおけるその役割の進化や自己主権型IDイニシアチブとの関連性も含まれた。
全てのプレゼンテーションの後には活発な質疑応答や突っ込んだ議論が行われ、しばしば非公式なオフラインの交流にまで発展した。当日の参加者は約50人と、参加希望を表明した登録者数64人に迫るもので、コミュニティの強い関心とエンゲージメントが示された。ワークショップの形式は活発な交流を促し、多くの提案やアイデアが具体的なツールに進化したり、高度なブロックチェーン機能の基礎を支える構成要素となるように準備された。
今後の展望
CTBは、研究者と実務家が洞察を交換し、イノベーションを紹介し、ブロックチェーンシステムにおける暗号の未来を議論するための重要なプラットフォームを提供し続ける。CTBワークショップは、グローバルな専門家を招集し、オープンで協力的な環境を育成することで、ブロックチェーン技術のセキュリティ、スケーラビリティ、機能性の向上に貢献する。興味のある読者やコントリビューターは、ワークショップのサイトでプレゼンテーションのスライドや最新情報を参照して欲しい。IOは、CTBの今後のエディションをサポートし、参加することを楽しみにしており、暗号研究と分散型エコシステムにおける実用化の推進へのコミットメントを継続していく。
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