レイヤー2の拡張:Hydraを超えて
Input | Output Research (IOR)はIntersect研究ワーキンググループと協働で6月のCardano R&Dセッションを主宰。エコシステムをけん引する開発者や研究者たちが一堂に会し、オプティミスティックロールアップやゼロ知識ロールアップから、Hydraから着想を得て強化されたアーキテクチャーまで、新世代のレイヤー2イノベーションを考察
2025年 6月 24日 11 分で読めます
IORはコミュニティコラボレーションへのアプローチを高める一環として2025年6月のCardano R&Dセッションを主宰し、レイヤー2の拡張:Hydraを超えて(Layer 2 Expansion: Beyond Hydra)をテーマとしたパネルディスカッションをライブストリーミングした。イベントでは、Cardanoエコシステムで開発された主要なレイヤー2イノベーションに注目し、Hydra Headプロトコルから遥かに成長したスケーリングソリューションを考察した。
IORは、2025年Cardano予算キャンペーンで寄せられたコミュニティからの要望に応え、Intersect研究ワーキンググループの月例ミーティングを、テーマに合わせたよりダイナミックなオープンイベントに生まれ変わらせた。6月のイベントには、Anastasia Labs、zkFold SA、Eryx、Sundae Labs、IORから開発者や研究者が集い、それぞれのレイヤー2イニシアチブに関する洞察を共有した後、IORリサーチパートナーシップディレクターFergie Millerが司会を務める円卓会議が開かれた。
Hydraとレイヤー2の状況
セッションは、IORリサーチフェローのSandro Coretti-Draytonによる詳細なプレゼンテーションで幕を開けた。ここでは、Cardanoのスケーリング戦略におけるHydraの進化する役割に関する包括的な更新情報がもたらされた。Cardano Vision研究アジェンダの主要な柱として、Hydraは、レイヤー1のセキュリティ保証と決済ファイナリティを維持しながらスケーラブルなオフチェーンでのトランザクション実行を提供することを意図している。
Sandroは、Hydraファミリーにおける2つの基本設計を概要した。
- Hydra Head – 小規模な参加者固定グループ用ステートチャネルプロトコル。コントロールの共有で、迅速なオフチェーントランザクションスループットを実現
- Hydra Tail – 集中管理されたパーティによって運用されるロールアップに着想を得たモデル。高いスループットを必要とするアプリケーションのためにより大きなスケーラビリティを目指す
Sandroは現在進行中の研究ストリームの詳細を紹介した。これには、証明可能安全性やモジュラープロトコル構成を可能にする、UCフレームワークを使用したHydra Headの形式検証が含まれる。また、複数のHydra Headに接続してその間に仮想チャネルを有効にし、複雑なマルチパーティネットワークの基礎を築くメカニズム、Hydra Inter-Headにも焦点があてられた。
重要なことに、SandroはステートチャネルネットワークのOptimization Tools(最適化ツール)を成長中の注目すべき研究ストリームと紹介した。この研究の目的は、複数のヘッドを対象にしたHydraデプロイのための効率的なトポロジーとルーティングメカニズムを設計し、パフォーマンスの最大化、レイテンシーの最小化、分散した参加者間での堅牢な協調を確保することだ。
また、オフチェーンプロトコルにおける透明性の課題にも触れた。これを軽減するために、チームは、トランザクションの数や頻度といった高レベルのメトリクスを、個々のトランザクションデータを開示することなく外部監査に検証させられるAuditing Tools(監査ツール)を開発している。この軽量メカニズムは、プライバシーと説明責任のバランスを取るべく設計されている。この分野の今後の研究には、監査機能を非集計統計にも拡大すること、そして動的に設定可能な監査ポリシーの実現が含まれる。
パネルディスカッションのハイライト:Hydraを超えたスケーリング
Sandroのプレゼンに続き、新興のCardanoレイヤー2エコシステムで最もアクティブなコントリビューターたちによるパネルティスカッションで、Cardanoが直面するスケーラビリティ、ユーザビリティ、セキュリティの課題に対するそれぞれ独自のアプローチが提供された。
Cardanoのパフォーマンスとアクセス可能性の向上へのコミットメントを共有しながらも、パネリストたちは幅広い技術的戦略を反映し、エコシステムにおける豊富なイノベーションと、Cardanoの基本アーキテクチャー、とりわけ拡張UTXO(EUTXO)モデルがいかにさまざまなレイヤー2構造をサポートできるかについて提示した。
Anastasia Labs:Midgard(オプティミスティックロールアップ)
Philip DiSarroは、EUTXOモデルに特化したOptimism and Fuel系オプティミスティックロールアップMidgard(ミズガルズ)を紹介。ここでは、決定論的不正証明と、ガバナンスマルチシグへの依存の最小化という、設計上の利点が強調された。Midgardの技術仕様はすでにオープンソース化されており、今年末までにメインネット対応のMVPを予定している。
zkFold SA:Cardano向けZKロールアップ
Vladimir Sinyakovは、何百ものトランザクションを1つのレイヤー1送信に圧縮するzkロールアップ、zkFoldを紹介。zkFoldはプライバシーと効率を重視し、 ほぼ最終的なトランザクションの確定性とネットワークオーバーヘッドの大幅な削減を提供する。Vladimirによれば、zkFoldは年末までにテストネットまで達する可能性があり、スマートコントラクトの完全サポートがそれに続くことになるという。
Eryx Cooperativa: ZKブリッジプロトコル
Carolina Langは、Cardanoの組み込みZKブリッジに関するEryxのビジョンを共有した。これは、同型チェーン通信を目指したものだ。ZcashやStarkNetなどさまざまなチェーンの暗号エンジニアリングに豊富な経験を持つEryxチームは、セキュアで監査可能なチェーン間相互運用性のために、オープンソースのモジュラープロトコルを構築している。
Sundae Labs: Gummiworm(Hydra系ロールアップ)
Pi Lanninghamによれば、Gummiworm(グミワーム)はトランザクション実行とカストディを分離した、水平スケーリングが可能なロールアップシステム。より幅広いDeFiユースケースを念頭にHydraを再解釈したGummiwormは、複数のヘッド間でアトミックトランザクションを可能にし、最先端のプリミティブよりも実用的な暗号技術を活用する。
円卓会議:相互運用性、エコノミクス、コラボレーション、セキュリティ
議論を通じて繰り返し登場したテーマは相互運用性だ。Philip DiSarroとVladimir Sinyakovの両者はCardanoのレイヤー2全体で標準化されたインターフェイス層の必要性を強調し、イーサリアムの断片化したスケーリングエコシステムから重要な教訓を導き出した。パネリストたちは、覇権を競うのではなく、DeFiやプライバシーから高スループットのアプリケーションまで、さまざまなユースケースに最適化されたソリューションのポートフォリオを提供することを目標とすることで合意した。これらのソリューションは、シームレスなプロトコル間相互作用を保証する共有標準によって支えられる。
この議論では、レイヤー2の経済設計についても掘り下げられた。Pi Lanninghamは、ユーザーが独立したプロトコル内で資金をロックする必要から引き起こされる資本の断片化が、普及の主要な障壁であると指摘した。彼らからは、資本効率を維持し、機会間のコンポーザビリティを確保するために、流動性ボンディングメカニズム、ユーザーエクスペリエンスの向上、そしてプロトコル間の深い統合といった解決策が提案された。パネリストたちは、これらのインセンティブは、ユーザーだけでなく開発者やオペレーターに対しても慎重に調整される必要があり、それによって活気あるレイヤー2エコシステムが維持されるという点で合意した。
もう1つ、重要分野として議論されたのはセキュリティだ。Sandroは、プロトコルがより多くの価値やインフラにとって極めて重要なトランザクションを扱い始めたことを受けて、厳密に定義されたプロパティと数学的に証明可能な保証の重要性を強調した。Carolinaは、実装と監査の両方をサポートするために、Cardano内でより強力なゼロ知識(ZK)コミュニティを構築する必要性を強調し、複雑な暗号システムにおけるリスクを低減し信頼を高めるには、共同によるセキュリティレビューと教育が不可欠であると述べた。
最後に、パネリストたちは、Cardanoの多層アーキテクチャーを形成する上での競争よりも協調の重要性について考察した。ネットワークがスケーリングに対して多元的なアプローチを採用する中で、CardanoのEUTXOモデルがセキュアなモジュラー型レイヤー2構築に独自の利点を提供するという共通認識があった。ただし、その可能性を最大限に引き出すには、コミュニティ主導のイノベーションとコラボレーション、共有インフラ、そしてオープンスタンダードが必要である。この対話は、Cardanoのスケーリングロードマップは1つの勝者を選ぶものではなく、多様なレイヤー2ソリューションが発展できるセキュアで相互運用可能な基盤を可能にするものだという考えを再確認させた。
今後の展望:Cardanoにおけるレイヤー2の未来
締めくくりに、パネリストたちは今後3〜5年間のCardanoの進化について考察した。
- Sandro:厳格なプロトコルセキュリティ分析の推進を重視
- Philip:レイヤー1の手数料モデルにおける持続可能性のギャップについて警告し、スケーラブルなレイヤー2のスループットがこのギャップを埋めるのに役立つ可能性を示唆
- Vladimir:分散化を維持しながら帯域幅を拡大する上でのブロブとバッチ処理の役割に言及
- Carolina:Cardanoが形式検証の理念とEUTXOモデルのおかげで、ZKベースのアプリケーションと独自の互換性を持っていることを強調
- Pi:開発者は共有し、共に構築することを切望しているため、Cardano全体にわたる協力的な考え方が差別化要因であると再確認
レイヤー2の拡張:Hydraを超えてでは、Cardanoのスケーリングの未来が単一のプロトコルによってではなく、相互運用可能な専門的なレイヤー2ソリューションの集合体によって定義されることが示された。これらのソリューションはそれぞれ、パフォーマンス、プライバシー、ユーザビリティの向上に貢献する。
IORとIntersect研究ワーキンググループは、このエコシステム全体の協力関係を支援し続けることを約束する。新しいプロトコルが間近に迫り、より深いパートナーシップが形成される中で、Cardanoは分散型で高性能なブロックチェーンインフラの次の段階をリードするのに有利な立場にある。