一連のパラメーターはCardanoプロトコルの動作を定義するために使用されます。パラメーターによっては、安定しており、ほぼ永久的に変更せずにおいておけるものもあります。また、より動的なオンチェーンのアクティビティに関連するため(例えばステーキングの環境やADAの価格など)、こうした要素における変更や変動に応じて定期的な調整が必要となるものもあります。
とくに2つの可変パラメーターは、その1つ(あるいは両方)を変更することで、分散化、利回り、およびCardano体験のその他の側面に影響を与える可能性があることから、ステークプールオペレーターのコミュニティで議論を醸し続けています。この2つとは、プールがどのレベルでステークの「飽和」に達し、それ以上の報酬を受け取らなくなるかを決定するk値と、報酬をデリゲーターたちと分割する前にプールに支払われる固定料金である最低プール手数料です。
今年初め、これをいかに調整するかについてCardano SPOコミュニティにアンケートを取りました。その結果がこちらです。
結果には、SPOコミュニティの多数がk値と最低手数料の変更を支持していることが示されましたが、いくつかの争点は残っています。パラメーター自体の変更にはかなりの柔軟性がありますが、決定プロセスはあまり明確ではありません。したがって、両パラメーターの調整要件について明確であることが重要です。これらを変更することは基本的にコミュニティの判断ですが、最重要事項はネットワーク全体の健全性および分散性です。
透明性と客観性を念頭に、この記事ではまずkパラメーターと最低手数料の概要を簡単に説明し、これら2つのパラメーターを調整するさまざまな方法と、それぞれのアプローチの長所と短所を概説します。
kパラメーターの概要
kパラメーターは報酬を受けるプールの最大ステーク数を決定します。実質的には、プールサイズに「ソフトキャップ」を設定します。このサイズは長期的に変更され、リザーブに残る量を引いたADAの最大供給量(450億)に対する割合で決定されます。エポック370の場合、34.3億ADAです。
最大プールサイズ = (450億 - リザーブ) / k = (350億 / 500) = 7000万
Cardanoのドキュメントによれば、最大サイズに達したプールは飽和状態であるとされています。飽和したプールは最高の報酬をデリゲーターに提供し、オペレーターが最も利益を上げられるプールとなりますが、飽和過剰のプールの報酬は低くなります。これにより、システムはデリゲーターにインセンティブを与え、それほどADAを持たないプールにステークを移動して、利回りを維持し、ネットワークの分散化を促進します。
2022年10月現在、k値は500に設定されています。以前、IOGはこの値を安全に1,000まで引き上げることができると示唆していましたが、結局次の3つの要因により最終決定が延期されました。i) コミュニティのアンケートから決定的な結果が得られなかった。 ii) IOGは、Vasilの機能を提供することに運営上の重点を置いていた。 iii) 現在の飽和レベルに近いプールに委任するADAユーザーに破壊的な影響を与える可能性があったため、適切な計画とコミュニケーションが必要だった。
k値を変更することの意味
kはステーク分配の公平性を高める万能薬ではありませんが、一部のプールにプラスの影響を与えます。これによりプールの最大サイズが減少することで、より多くのプールがブロック作成の最適な範囲に収まります。この変更に委任の変更が伴う場合(ここではADA保有者の行動が重要です)、より多様なステーキング環境が生み出される可能性があります。これは、以前実行されたk=150 から現在のレベル500への変更で生じたことです。 多くの大規模なプールが一般の委任の取り合いをやめ、そのステークが他のオペレーターに行くことを可能にしました。
k=1,000に移行する状況は、あまり明確ではありません。プライベートプール(取引所、金融会社、または大規模なADA保有者が運営するものなど)は、既存のステークを小さなプールに分割することが予想されます。プライベートプールは、エコシステムの総ステークの約35%を占めており、これにより、さらに150のステークプールが作成されると推定されます。大規模なプライベートプールで生成される純ADA報酬は高めであるため、その委任がパブリックプールに移動することはないと考えられます。
IOGの計算によると、約100のパブリックプールがk=1,000 の移行によって影響を受け、再委任が必要なADAは約20億(供給の8%)になります。現在の収益性を維持するために、これらのプールは分割される傾向があります。ステークプールの運営は、その中核を成すコモディティ活動です。ブロックを生成しているプールにステーキングする場合、異なるブロック間の報酬にはわずかな違いしかありません。これが、プロトコルが意図する方法です。ただし、これらのプールの多くは、長年にわたって確立された実績や、コンテンツの作成およびソーシャルメディアでの活発な活動によって、強力な知名度を誇っています。プールオペレーターとの経験によって、これらのプールは、新しく作成したプールにデリゲーターの大部分を保持できる場合があります。
1,000万を超えるほどのプールは同等の価格を提供できるため、これらのプールが変更の主な受益者になることが期待されます。 分割されたプールが保持しきれていない委任の大部分を取得します。(20億ADAのうち、IOGは、その3分の1から半分が移動することになると推定しています。)
ここでの重要なポイントは、kの移動によってネットワークの多様性がある程度増加する可能性がある一方で、その影響は以前の変更よりもはるかに少ないと予測されるということです。
kの変更に向けた3つの潜在的アプローチ
IOGは、コミュニティが検討すべき3つの潜在的なシナリオを特定しました。
オプション 1:kを即座に1回で1,000に引き上げる
オプション 2:kを段階的に1,000まで引き上げる(例えば月ごとに100など)
オプション 3:変更しない ‐ kの現在値(500)を維持
最低手数料の概要
ステークプールは、Cardanoエコシステム内で重要な機能を果たします。新しいブロックを生成し、ネットワークの分散化に貢献します。
これと引き換えに、プールは次の2つの方法で補償されます。
- ブロックが生成された場合に取られる定額の固定料金
- プールに支払われる合計報酬のパーセンテージである変動料金
プールは選択した変動料金を自由に設定できますが、台帳ルールでは最低固定料金が定義されています。
最低料金は、シビル攻撃(料金ゼロのプールを多数作成してネットワークを乗っ取ろうとする試み)に対する追加的な保護層として機能します。これらの最低料金を廃止または引き下げると、この保護層が取り除かれ、特定の形態の経済的攻撃に対するCardanoの脆弱性が増す可能性があります。ステーキング行動と再委任に関するIOGの分析は、この懸念が現在、実際的な問題ではなく、より理論的な問題である可能性があることを示唆しています。Cardanoは、委任を動かし回って数年以内に効果的な攻撃の実行が可能になるようなポイントを過ぎました。
一方、最低固定料金を設定すると、特定のサイズに達するまで、小規模なプールが、確立された大規模なプールと経済的に競争することが難しくなります。この手数料は、プールがデリゲーターに報酬を渡し始める前に満たされる必要があり、プールが宣伝する可視的なパーセンテージレートよりも数倍大きくなることもある実効レートになる可能性があります。より小さなプールに委任することは、一般に、デリゲーターにとってはるかに悪い結果となり、最初のデリゲーターが追加のコストを負担してプールに支払うことになります。
最低料金は、確立されたSPOが新しいプールをスピンアップするためのインセンティブとしても機能します。そうすることで「収入」が保証されるからです。
最低料金を変更することの意味
以下に示すオプションはいずれも、ADA保有者に直接的な影響を与えるものではありません。最低料金が引き下げられても、プールがすぐに変更を加える必要はありません。短期的には、競争力のあるリターンを提供する能力は、委任を惹きつけようとしている小規模なSPOに利益をもたらすはずであり、手数料の管理を維持することで、小規模なプールをより長く存続させることができます。
手数料変更への3つの潜在的アプローチ
kパラメータと同様に、IOGはコミュニティに検討してもらう3つの選択肢を提示したいと考えています。
オプション 1:最低手数料をゼロに設定する
オプション 2:最低手数料を大幅に削減する(例えば40ADAなど)
オプション 3:最低手数料を現状維持する
最後に
上記の情報を考慮すると、これらのパラメーターのいずれかまたは両方を変更するには、慎重に検討する必要があります。変更がステークの配分に大きな違いをもたらす可能性は低いですが、適切に検討された変更は、より小さなプールをサポートし、ネットワークの継続的な分散化を支援するという点で、依然として前向きな方向に針を動かします。
そして、単にこれらのパラメーターの変更は、SPOエコシステム全体にステークを行きわたらせるための会話の一部にすぎません。コミュニティが作成した改善提案(CIP7、CIP23、CIP50など)は、このトピックと並行して、継続的に議論と評価が行われています。
Cardanoネットワークと全体的な環境は、この1年間で大きく変化しました。今後、パラメーターの最適化は、将来の技術ガバナンスモデルの重要な要素になります。これを念頭に置いて、IOGはSPOの小さなグループとCardano財団と協力してパラメーター協議グループを形成することを計画しています。これは、Cardanoの新しいガバナンス構造に対応するために、必要に応じて進化します。
プールの目標数と最小プールコストの3つのオプションの概要を説明する最新の調査が、今週SPOに配布され、優先ルートを把握できるようになります。結果は、新しいパラメーターグループがレビューします。その後、SPOや他のネットワークユーザーの運営上のニーズを考慮した変更のタイムラインと共に、決定がなされ、通知されます。
コミュニティは、ここで提示されたオプションを検討する機会を得ました。アンケートとフォームは、本日メールおよびSPO Announcementsチャネルを通じてSPOに共有されます。
本稿執筆にあたり、Colin Edwards、Kevin Hammond、Fernando Sanchez、Tim Harrison各氏およびAggelos Kiayias教授のご協力に感謝します。
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