ブロックチェーンシステムの初期の目的は、金融取引に関して分散型のコンセンサスに達することでした。現在、この目的は達成されています。さまざまなプラットフォームがさまざまな分散化レベルを提供しており、中にはかなり堅牢なものもあります。以来ブロックチェーンは、ビットコインが当初目的としていたものよりも多くの機能を持つよう拡張されています。
しかしながら、「コードが法である」という意識は以前として蔓延しており、コミュニティのニーズと相容れないこともよくあります。従来、このような不和を解決するのはハードフォークです。これは、ビットコインもイーサリアムも避けることのできない運命でした。哲学的には、これらは合理的であり、避けられないものであると言えるかもしれません。こうした見方は、結果が劇的なものでなければ擁護しやすいでしょう。エンジニアリングの才とコンピューターリソースは分割され、デジタル資産は複製され、多くのどっちつかずのユーザーは移行先を選択することを余儀なくされ、プロジェクトが後退し、不正の機会が生み出されます。
本稿では、Input Output Global, Inc.(IOG)の「ブロックチェーンガバナンス」研究、とくにこのような多様な分野をシステム化する方法について、この理解をCardanoに適用し、業界を前進させる可能性について考察します。詳細は、この分野で先駆的な論文「SoK: Blockchain Governance」で説明されていますが、今後もさらに研究発表が進むことが見込まれます。
堅牢なガバナンスシステムの確立
最新ブロックチェーンの多くは、何らかの形でオンチェーンあるいはオフチェーンのより堅牢でエレガントなガバナンスを正式に採用することを選択しています。もちろん、現在のガバナンス設計に影響を与える伝統的な政府形態、民主主義、および投票の背後には膨大な量の文献があります。しかし、たとえ最終目的が似通っていても、ブロックチェーンの間には多くの差異があります。
IOGでは、7つの異なるプロパティを使ったガバナンスアプローチの抽出を試みています。複雑な設計でありがちなように、このようなアプローチの間には重要なトレードオフがあり、適切なバランスにより、各ガバナンスシステムに固有の特性が付与されます。プロパティは、次の図に示されるように、更に4つのカテゴリーに分けられます。
図1:ブロックチェーンガバナンスのプロパティ
深く掘り下げる前に、ガバナンスシステムの「内部の仕組み」はこのシステム化の一部ではないことを念頭においてください。ここでの関心はこれらのプロパティの適切な組み合わせを達成することにのみあり、基盤となるシステムが財団、DAO、ガバナンストークンなどを使用するかどうかは、それらにサービスを提供するメカニズムに過ぎません。さらに、キーワード「Deliberation(審議)」と「Execution(実行)」がグレーアウトされていることに注意してください。これらはあらゆるガバナンスシステムにとって重要ですが(たとえば、有権者に十分な情報が提供され、計画された決定が実施されるようにするため)、本稿では対象外です。ここでの焦点はこれら2つのプロパティ間のプロセスにあり、この2点については完全に満たされていることを前提としています。最後に、これらすべてのプロパティが満たされても、ガバナンスシステムが完全になるわけではないことにも注意することが重要です。ただし、このすべてを考慮し、どれを追及するかを慎重に決定することが重要です。
これらのプロパティの概要は以下の通りです。
Suffrage(投票権)
明らかに、最初に考慮すべきはどのユーザーに投票者または被選挙人としてガバナンスへの参加能力を持たせるかを決めることです。これは単純に見えるかもしれませんが(人類数千年の歴史がそうではないことを証明しているにもかかわらず、ですが)、ブロックチェーンシステムにおいて、これはいささか難題です。コンセンサスプロトコルへの参加(ハッシュパワーなどの基盤となるリソースを提供することによってなど)やステークの所有など、暗号資産とインタラクトする方法はたくさんあります。こうした役割は、分散型金融(DeFi)アプリケーションではさらに多様になる可能性があります。加えて、匿名によるインタラクション、シビル攻撃の可能性と別のブロックチェーンへの切り替えの容易さ等を鑑みると、投票者は通常平等に扱われるわけではなく、なんらかのオンチェーンリソースのシェアに応じてウェイトが置かれます。最も一般的な投票権のタイプには、「トークンベース」および「生成ベース」、「実力主義」(以前の貢献実績によって権利が保証される)、さらに、身分証明とリンクさせた「IDベース」がありますが、これは匿名性との衝突を考えてさほど真剣に検討されていないのが現状です。
Pareto efficiency(パレート効率)
誰が有権者となるかが決まったら、次のステップは好みを行動に移すことです。想像通り、これは言うは易く行うは難しで、実践的にも数学的にも障壁があります。理論面では、「最適な」(または最も「望ましい」)結果とは何かを定義することすら不可能であることが証明されています。典型的なのは、すべての投票者はすべての選択肢にランキング付けるという仮定です。これは、選択された場合のその投票者の満足度を表す数値スコアに関連付けられていることもあります。これらの選択肢としては、候補者、レファレンダムの結果などが可能性として考えられます。直感的に、「最適」はすべての「ペアワイズ」(あるいはヘッドアップ)による選定に勝利した候補として定義することができます。この候補は「コンドルセ勝者」と呼ばれますが、必ずしも存在するわけではありません。実際、3つ以上の選択肢がある場合、理想的な投票メカニズムは存在しません。大まかに言えば、投票者は自分の好みを戦略的に偽って伝えることで利益を得るか、(コンドルセの勝者を選ばないことよりも)はるかに基本的なプロパティが侵害されるかのどちらかになります。そのような結果は数多くありますが、アローの定理が最も有名です。
代わりに、投票ルールで弱めの保証を獲得しようとします。パレート効率はまぎれもなく最弱です。投票ルールは、選択された選択肢が他の選択肢よりも厳密には悪くない場合に満たされます。厳密に悪いとは、すべての投票者が無関心か、または他の選択肢を好んでいることを意味します。ガバナンスシステムには多くの投票規則(レファレンダムや評議会選挙など)が含まれているため、明らかに次善の選択肢が選択される可能性と、それがどの程度悪化する可能性があるかを判断することに焦点を当てています。
Confidentiality and verifiability(機密性と検証可能性)
この一対のプロパティは、結果を正当化し、ユーザーがガバナンスシステムに寄せる信頼をサポートするためのものです。大まかに言えば、どちらも簡単です。機密性は、秘密性(敵対者が投票を観察することによって何も知ることができない場合)と、有権者が秘密裏に好きなように投票しつつ、自分の行動について実際に攻撃者を欺くことができる強制抵抗性にさらに分類できます。このプロパティは両方とも技術的に困難であり、通常、投票者にその匿名を関連付けることができないと仮定すると、弱い形式の機密性のみが満たされます。これらのプロパティは、検証可能性と矛盾しています。投票が安全になればなるほど、情報を漏らさずに結果を独自に検証するのは難しくなります。
Accountability and sustainability(説明責任とサステナビリティ)
ここまでのプロパティは単一のガバナンス「ラウンド」に適用されます。説明責任とサステナビリティは、長期的かつ効果的な参加を促す2つの補完的なプロパティです。とくに、説明責任とは、投票者(または一般的な意思決定者)に自分たちがもたらす変化に対する責任を負わせることです。これを実現するためには、結果の質を判断する必要はありませんが、より穏やかな形をとることは可能です。たとえば、ある提案を好む投票者が、一定期間資金の引き出しや、別の変更への投票をできなくなるなどです。反面、ガバナンスシステムへの参加(投票、管理、または開発による)が報われる場合、ガバナンスシステムはサステナブルです。これらの側面には時間と物質的な投資が必要であり、コインの価値の上昇だけに頼るのではなく、問答無用で直接報われるべきです。オンチェーントレジャリーアプローチは、この目的で使われることが多々あります。
Liveness(活性)
パズルの最後のピースは活性によってもたらされます。これはガバナンスシステムの機能であり、緊急のインプットを組み込みます。これまでのところ、両極端が観察されています。DAOのハッキングは(部分的に)ガバナンスの反応が鈍いことによって可能になりましたが、Beanstalkのエクスプロイトは、圧倒的多数の場合の特定の即時アクション条項によってトリガーされました。これらの例から明らかなように、活性は必要なプロパティであり、通常はコストがかかります。予期しないコーナーケースを回避するために、多くの場合、緊急シャットダウン機能のみが提供されます。これにより、ブロックチェーンシステムの攻撃対象領域を大幅に増やすことなく、ユーザーが反応するために必要な時間を与えられます。
評価
次の表では、いくつかの著名なブロックチェーンのガバナンス面の評価が示されています。これは、ガバナンストークン、評議会選挙、トレジャリーなど、現在のさまざまなアプローチを表すために選ばれたものです。
最後に、堅牢なガバナンスシステムを確立するには、上記で説明したプロパティを適切に組み合わせることが重要です。この際、それぞれを検討しながらも、主として特定のシステム設計により適したものに焦点を当てることが重要です。
詳細は、Prof Aggelos KiayiasとPhilip Lazosによる「SoK: Blockchain Governance」を参照してください。この論文は、2022年9月19~21日にMITメディアラボで開催された、金融技術の進歩に関する第4回ACM会議(AFT'22)でも発表されました。
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